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サマーウォーズの戦い方─その1:〈つながり〉の意味を書き換える


テキスト : 山内泰
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テレビで頻繁に流れていた『サマーウォーズ』予告編を見て、嫌な感じがしていた。〈インターネットの闇〉とそれに対抗する〈家族のきずな〉という凡庸な構図。「つながりこそが、ボクラの武器」に象徴されるファミリズム・・・悪い予感がしてたのだ。だが実際の『サマーウォーズ』はといえば、こちらの予想を大きく裏切る、見事なエンターテイメント作品だった(唯一の難点は、エンディングの山下達郎の歌がよくないことくらい)。言葉ではなくイメージで多くを語るアニメ的な表現を突き詰めながら、細田守(監督)×奥寺佐渡子(脚本)は、「家族のつながり」というありきたりでイデオロギッシュな概念を、あっさりと書き換えてしまう。あまりにも巧みすぎて、そのラディカルな書き換えに気付かない人がいるのでは・・・と懸念されるほどだ。


(以下の文章には、重大なネタバレが含まれています。気になる方は、映画をご覧になってからお読みください。)
『サマーウォーズ』は、突如世界を襲ったサイバーテロに対して人々が協力して立ち向かうという物語で、例によって、みんな助かるハッピーエンドだ。特筆すべきは、次の二点。

まずはアニメによるエンターテイメントとしてのクオリティ。冒頭の、村上隆とのコラボで話題となったヴィトンのPVを彷彿とさせる、フラットでカラフルなweb空間の遊覧。そこから唐突につながれる、夏の日に自転車で走るナツキ先輩のカット。タイトル&スタッフロールは、長野の田舎への旅程と並行して進められるが、そこで最小限にして最大の説明を与える編集の巧みさetc・・・目を離す暇がない。他にも、web空間・長野の田舎・甲子園を行き来するストーリーテリングの妙だとか、マンガ的な記号表現の効果的な使用法だとか、最後の「うれしぃ」で一気に巻き返すナツキ先輩とか、カズマ君が少女すぎるとか、ケンジ君かわいいとか、指摘すべき箇所は多い。

だがそっちに見とれていると、もう一つのテーマに気付くまもなく、観終えてしまう(実際、一度目はそんな感じだった)。特筆すべきもう一点、それは、この映画における〈戦い方〉だ。『サマーウォーズ』は、前半と後半にそれぞれの〈戦い方〉を示した上で、後半のスタイルのアクチュアリティを主張する。

前半では、カリスマお祖母ちゃんを頂点とする血縁・人脈ヒエラルキーの構成員がフル稼働して、サイバーテロのもたらす困難な事態に一応の収集がつけられる。お祖母ちゃんが電話をかけまくるシーンに象徴されるトップダウン型だ。ここで映画が終わっていれば、ひどく凡庸な映画となっていただろう。トップがたまたまお祖母ちゃんだっただけで、父親でもヒーローでも、その手の物語は履いて捨てるほどある。

だがこのお祖母ちゃんを、細田×奥寺は、映画の中ほどであっさり死なせてしまう。ここから後半となるが、そこで映画は新たな問題を抱え込む。つまり、お祖母ちゃんに代表されるカリスマが失われた後、なお〈家族のつながり〉があるとしたら、それはどういうかたちで構想できるのか、という問題だ。

これに対する『サマーウォーズ』の回答は、web上の〈コミュニティ〉をモデルとして、〈家族のつながり〉を構想するというものだ。ここで〈コミュニティ〉とは、何かしらのタイトルの元に集うハイブリッド集団であって、そこへのログイン・ログアウトはパスワードさえあれば自由というもの。映画後半では、「お祖母ちゃんの息子(の息子、あるいは奥さん)」といった説明を与えられていた登場人物が、「電気屋さん」「謎の自衛隊員」「イカ釣り漁船のおっさん(にして空手の師匠)」・・・など血縁関係とは違った側面から再定義される仕方で、再び家にやってくる。つまり、〈コミュニティ〉にログインしてくる。

面白おかしく描かれるこの超展開を前に、「家族にそんな人、いるわけないし」と白ける人もいるかもしれない。だがそれこそ、一般的な〈家族〉概念に囚われてしまっている証だ。ここでは、「そんな雑多な人たちの集まりこそ〈家族〉なのだ」というラディカルな主張がなされているのであり、だからこその超展開なのである。ソフトバンクのCMや細田守が監督するはずだった『ハウルの動く城』、あるいは『狂乱家族日記』など、ハイブリッドな集団を〈家族〉と言い張る野心的な試みはことごとく超展開だったわけで、その系譜に『サマーウォーズ』後半も位置づけられるべきだろう。

そうやって後半では、前半で扱われた血縁コミュニティが、〈ハイブリッドな人々の寄せ集め〉として書き換えられていく。この書き換えられた〈家族〉が、映画が進むにつれてweb上の〈コミュニティ〉とほぼ等価に扱われるのも、だから、いたって自然なことなのだ。

『サマーウォーズ』

2009年8月1日公開の映画(»公式サイト


細田守

ポストハヤオと目される注目のアニメ作家。前作の『時をかける少女』で一躍有名に。もっともアニメファンの間では、『デジモン・アドベンチャー』の凄い回を担当した作家として知られているらしい。


ファミリズム

〈ナショナリズム〉についてはいろいろと語られているのに、その思想の根底にある血縁に基づく家族中心主義についてはあまり語られていないような気がする。ので、〈ファミリズム〉と呼称することに。


村上隆とのコラボで話題となったヴィトンのPV

村上隆がヴィトンへ提供したデザインをモチーフに、細田守が制作したPV。サマーウォーズのweb空間のデザインは、このイメージに多くを負っている。


ソフトバンクのCM

2007年からオンエアされていたCM。家族構成は、父:犬、母:樋口可南子、兄:外国人、娘:上戸彩。


『ハウルの動く城』

スタジオジブリ作品。2004年。少女に老婆の母性を要求するところにまでハヤオのリビドーが極まった傑作。超展開の嵐となる映画後半では、魔法使い(美男)、悪い魔法使い(老婆)、魔法使い見習い(ショタ)、火の悪魔(カルシファー)、少女(にして老婆)による擬似家族の営み(の魅力とその成り立ちがたさ)が主題となっている。


『狂乱家族日記』

原作は日日日著のライトノベルで、2008年にアニメ化。人間や動物、ロボットまでまとめて〈家族〉と言い張る怪作。家族構成は、父:公務員、母:魔族の女王、長男:性同一性障害の美青年、次男:鬣の立派なライオン、三男:殺人ロボット、長女:Sなお嬢様、次女:少女、三女:ピンク色のクラゲ。





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