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山海塾『卵を立てることから-卵熱』 天児牛大 記者会見 |
取材・構成:山内 泰
暗黒舞踏カンパニー山海塾が、代表作『卵を立てることから-卵熱』を北九州芸術劇場で上演します(11/1@北九州芸術劇場)。公演に先立ち、天児牛大さんの記者会見が開催されました(9/25@北九州芸術劇場)。
1986年にパリで初演された『卵を立てることから-卵熱』は、山海塾の作品のなかでも、とりわけ再演の依頼を受けることの多い代表作として知られています。会見では、作品のコンセプトや再演にまつわるエピソードなどが、語られました。その模様のレポートです!
まず山海塾から説明しておきましょう。山海塾は、1975年に天児牛大(あまがつ うしお)によって設立された舞踏カンパニーです。髪を剃った白塗りの男達、写真で見るとなんだかあれですが、しかしここは是非、実際に、山海塾の舞台をご覧になっていただきたい。ゆったりながらも力強く、しなかやにして異様に精緻、この上なく洗練された舞台に、見かけの印象とはまったく違った衝撃と戦慄を覚えることでしょう。(下写真:山海塾『卵を立てること-卵熱』から。 )
(C)Minako ISHIDA
「暗黒舞踏」の代表的なカンパニーとして、サブカル好きには、麿赤児率いる大駱駝艦が有名かもしれません。あくまで個人的な印象ですが、「暗黒舞踏」のイメージをポップ化していった大駱駝艦と、「暗黒舞踏」をひたすら洗練させていった山海塾、両カンパニーは、同一のルーツを持ちながら、実に好対照をなしているように思います。(福岡公演でも、大駱駝艦の会場はイムズ、山海塾は北九州芸術劇場というのが、実に象徴的です。)
さて今回上演される『卵を立てること-卵熱(うねつ:以下「卵熱」と記載)』、制作するきっかけのエピソードとして、天児さんは次の2点を語られました。
まず、野口三千三(みちぞう)の「卵は立ちます」という言葉。東京藝大の教授にして〈野口体操〉の考案者によるこの言葉と、中心線をきちんとすれば卵はきちんと「立つ」ことにインスパイアされた、と天児さんは言います。それは、とても危うく、しかし絶妙なバランスの上に成り立つ状態。地上に対して垂直に、すっと伸びる、その静かで硬質な美しさに、ヒトが地球上に立っている状態とのアナロジーを見出すのです。
(C)Minako ISHIDA
たしかに天児さんは、記者会見の際のちょっとした動きや立ち姿といった普段の振舞いからして、すでに〈かたち〉になっているようでした。以前、バレエの女王ギエムのさりげない所作が異様に美しいのに驚愕したことがありますが、舞踊家とは、身体の仕組みを独自の仕方で組みかえてしまった人々なのでしょう。
さて天児さんがインスパイアされたもう一点は、〈卵生神話〉だったと言います。「世界は卵から生まれた」とする〈卵生神話〉は、北欧やアフリカなど、世界各地の神話に登場するらしく、そもそも神話とは、自然と人間の対話の中から生まれたもの。そうした神話の中で、世界の発生する局面に卵が関わっている。そして卵は、その内部に生成の可能性を秘めつつも、殻を破壊されて〈かたち〉を崩壊させない限り、内部の可能性を顕在化しえない。天児さんは、絶妙なバランスで立つ卵の内に、そうした〈生成と破壊〉のダイナミズムをも見出すのでしょう。だから、〈卵〉へと身体をミメーシスする衝動に駆られたのではないでしょうか。
(C)Minako ISHIDA
『卵熱』の舞台上には水が薄く張られ、舞台奥では〈水〉と〈砂〉が静かに絶え間なく落ち続けています。天児さんによれば、〈水〉は常に流れ去り広がりゆくものとして「空間」を示し、また〈砂〉は万物の行き着くところのものであって、堆積する「時間」を示すとのこと。舞台は、そうした万物の〈はじまり〉と〈おわり〉のメタファーによって構成されていて、その中で、舞踏家達は卵とひそやかに対話するのです。(ちなみに、〈砂〉は肌理が粗いと痛いらしく、上演では肌理の細かなフランス産の砂を用いているそうです。また、〈水〉の張られた舞台は非常に滑りやすく、その上で踊るのは至難の業とのこと。)
(C)Minako ISHIDA
初演から20年経つ『卵熱』ですが、天児さんによれば、基本的な振付は変わってないとのことでした。しかしながら、20年の歳月が経過する中で、私達の身体のあり方は大きく変わり、また山海塾の踊り手の交代もあったそうです。そうした時代や世代の移り変わりの中では、その時代の身体に即した振付にするのが、妥当なようにも思われます。にもかかわらず、なお〈振付が変わっていない〉とは、どういうことなのでしょう。そうした疑問を、質疑応答の際に天児さんにお聞きしてみました。
その点につき、天児さんは、その時代特有の身体性を意識しつつも、やはり〈普遍的な身体の諸相〉を念頭に、振付をされているとのことでした。もっとも、だからといって、決められた型をトップダウンではめ込むのではなく、身体の内から動きを引き出すのだ、と。
天児さんは、振付について次のように語ります。例えば、〈ゆっくり寝る〉あり方を〈沈殿〉と呼んでいるが、しかしそのあり方を知らない踊り手には〈沈殿〉と言っても何も伝わらない。そこで、様々な言葉が介在することになる。ところが、言葉通りの動きをきちんとこなしても〈沈殿〉になることはない。そこでまた、言葉が介在する。そうした言葉から零れ落ちる身体の諸相を共有しようとする〈対話〉の中から、〈沈殿〉という動きも共有されていく・・・。
(C)Minako ISHIDA
そうしたお話を伺う中で、今回の再上演は、20年前の天児さんが〈卵〉にミメーシスする中で生み出された〈動き〉を、今日の身体から引き出し、現在の〈動き〉へとともたらす、そうした営みであるようにも感じられました。それはまた、地球上に〈立つ〉普遍的な身体としての〈卵〉へミメーシスすると同時に、そうしたプロセスを通じて〈今日の身体〉の可能性を仮借なく追求する営みでもあるのでしょう。
山海塾の代表作として知られる『卵熱』は、今回の北九州公演の後、しばらく再演の予定はないとのこと。今年の山海塾は、必見です!
【公演情報】
山海塾『卵を立てることから-卵熱』
演出・振付・デザイン:天児牛大
舞踏手:天児牛大、蝉丸(「せみ」は正式字体「虫單」)、竹内晶、市原昭仁、長谷川一郎
日時:11月1日(日)14:00開演
会場:北九州芸術劇場・中劇場
全席指定:前売4500円/当日5000円
主催:北九州芸術劇場
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