複製技術によって作られる映像は、一度撮影してしまえば、いつどこでも上映することが出来る。このことは逆に言えば、映像が特定の時間や場所と結びつきにくいことを示している。いまここでしか見ることが出来ない、という映像は、原理的に成立しづらいのだ。 林勇気は、neutronでの個展『overlap』で、そうした特徴を持つ映像を用いながら、映像と上映される場所とがしっかりと結びついた作品を発表した。
林と言えば、はじまりもなければ終わりもない映像作品を作ることで知られている新進気鋭の映像作家である。たとえば林の作品では、林自身が出てきて何やら荷物を運び続ける。あるいは、空から真っ白な立方体が落ちてきて、それが積み重なっていく。そこには変化はあるものの、その変化がどこへ向かっているのか、結論は宙づりにされる。結論が宙づりにされたまま、映像は、淡々と進んでいく。
今回の出品作品も、そうした林のこれまでのスタイルを踏襲したものだ。ただ1点大きく異なっていたのは、先に記したように、今回の作品が特定の場所と関係性を持っていることだ。ソファーの上に置かれる作品にはソファーを舞台にした映像、階段に置かれる作品には階段を舞台にした映像といったように、林は、作品が置かれることとなる場所の写真をもとに作品を制作した。そしてその結果、作品において、映像空間と現実の展示空間とが重なり合うこととなる。こうした映像は、別の場所では魅力を失ってしまうとまでは言えないまでも、本展の展示空間で真価を発揮するものだと言えるだろう。
林は、そうした映像の上映にiPod touchを用いていた。テレビモニターと違って、iPod touchは物質感が目立たない。映像を上映するメディアをあまり意識することなしに、映像自体を見ることが出来る。また、プロジェクターと比べても、圧倒的に高解像度の画像を上映することが出来る(ちなみに映像作品を見るときに個人的に一番気になるのは、プロジェクターの性能のせいで映像が荒く見えてしまうことだ。iPodならそんなことに煩わせられることはない)。だから、iPod touchで上映される林の作品は、現実の空間と映像空間とが地続きで繋がっているかのような不思議なイリュージョンを生み出す。
そうした上映方法を用いていることよって、映像がiPod touchの中で再生されているのではなく、その奥に映像空間が広がっているかのような効果が生まれていた。言うなれば、iPod touchという窓を通して、現実の空間の背後にある不思議な世界を垣間見ているかのような感覚が生じたのだ。iPod touchの中ではあらかじめ制作された映像が再生されていたのだから、仮にiPod touchを動かしたところで、その映像が変化することはない。だけど、iPod touchを動かして別の場所に置いてみれば、またそこで新たな世界が見えてくるかもしれない。林の作品は、そんな想像をかきたててくれた。
本レビューに掲載された写真について
写真は全て林勇気さんに提供していただきました。撮影されたのはいずれも表恒匡さんです。
林勇気(はやしゆうき)
映像作家。1976年京都生まれ、1997年より映像の制作をはじめる。1999年から2002年まで映像作家大木裕之の作品制作に参加。現在宝塚造形芸術大学の講師。今回の個展『overlap』は11月10日(火)から22日(日)まで、neutronにて開催された。 また林は、11月24日(火)から12月12日(土)まで、アートコートギャラリー(大阪市北区天満橋)でグループ展「migratory ―世界に迷い込む―」に、牡丹靖佳、山野千里とともに出品する。
ホームページ:
http://www1.odn.ne.jp/tropfen/kanyukuyuki/
neutron(ニュートロン)
京都・三条烏丸西入ルの文椿ビル2階にある、ギャラリー/カフェ。カフェとギャラリーがつながっていて、カフェでお茶をしながら作品を見ることも出来るし、作品をカフェ空間と関連付けたりもすることが出来る。今年、東京・南青山に「ニュートロン東京」をオープン。
ホームページ:
http://www.neutron-kyoto.com/index.html
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