« ドネルモ.func(1)... | 神楽舞う、その手が触れる... »

オラファー・エリアソン ─ あなたが出会うとき (2)


               《ゆっくり動く色のある影》(注:1)

 

Text: 中村幸

色や光を駆使した作品によって、人間の知覚の仕組みに問いかける作品で知られる現代美術作家、オラファー・エリアソン(以下:エリアソン)(注:2)。金沢21世紀美術館で大規模な個展「Olafur Eliasson Your chance encounter / オラファー・エリアソン - あなたが出会うとき」が開催されました。そこで遠路はるばる、福岡から金沢へ。全4回にわたって、金沢21世紀美術館の紹介や展覧会のレビュー、そして学芸員の黒澤浩美さんへのインタビューをお送りします。

 

 

 

 

未完の参加する舞台

美術鑑賞における関与は、たんに美術作品と状況との関係に注意や意識を集中するにとどまらず、 ほかの観客やかれらの動きに左右される、優れて物理的な関与でもあるのである。

                                     (オラファー・エリアソン「波動」(『参画』所収 P.8)

子どもたちにも大人気の作品、《ゆっくり動く色のある影》。この作品の第一印象は、何故かアニメ『キャッツ・アイ』の杏里が歌うエンディング「DANCING WITH THE SUNSHINE」(注:3)だった。しかしそんなにセクシーなわけではなく、むしろ“Boy Meets Girl”というような爽やかな印象。光の前で行われる影の表現は、一種の発表の場である。前の観客が大の字や手をバタバタさせたりしたら、次の客は同じことをした後、身体をくねらせたりと変化球を投げてみる。そういう連鎖がそこにはあって、それはゲームセンターでプレイするビートマニアのような、ちょっとした人の視線を気にして参加する雰囲気に似ている。

 

注:1

《ゆっくり動く色のある影》

Olafur Eliasson Slow-motion shadow in colour, 2009 Installation view at “Olafur Eliasson Your chance encounter” (2009-10) Organized by 21st Century Museum of Contemporary Art, Kanazawa Courtesy of the artist and Gallery Koyanagi, Tokyo © 2009 Olafur Eliasson Photo: Keizo Kioku

注:2

オラファー・エリアソン(Olafur Eliasson)

1967年コペンハーゲン生まれ、現在ベルリンとコペンハーゲンに在住。1989年から1995年まで、王立デンマーク芸術アカデミーで学ぶ。1995年ヴェネツィア・ビエンナーレに初参加以来、シドニー・ビエンナーレ、サンパウロ・ビエンナーレ(いずれも1998年)、横浜トリエンナーレ(2001年)など、世界的な国際展に招かれている。欧米の主要美術館において個展を多数開催する中、2003年、テート・モダン(ロンドン)のタービン・ホールで発表した《The Weather Project(ウェーザー・プロジェクト)》は、特に大きな成功を納め、日本においても広くその名を知らしめることになった。自然界におけるさまざまな要素—光、影、色、霧、風、波を作品に取り込み、鑑賞者の視覚や認識を揺り動かすことについて定評がある。パブリック・アートの代表例としては、2008年にニューヨークのウォーター・フロントに4基の人工の滝を出現させ、作品をとりまく環境との関係をダイナミックに表現したものとして記憶に新しい。他に、自然界の様々な現象や形に関心を持ち、鏡面の多面体の内部に入り、光や像の屈折を楽しむ作品などもあり、そのうちのひとつ《La situazione antispettiva(反視的状況)》(2003年)は金沢21世紀美術館のコレクションにも加えられている。2009年10月にはハラ ミュージアム アーク(群馬)で新しい屋外設置作品も公開された。

■http://www.haramuseum.or.jp

■オラファー・エリアソン公式WEBサイト  http://www.olafureliasson.net/

------------------------------------

注:3

『キャッツ・アイ』の杏里が歌うエンディング「DANCING WITH THE SUNSHINE」

http://www.dailymotion.com/video/x38ezf_hot-stuff

----- clear -----

 

                                  《ゆっくり動く影》

 

《ゆっくり動く色のある影》のモノクロ版とも言える作品《ゆっくり動く影》(注:4)では、光の前で動くと自分の後ろを影が追いかけてくる。ウェンディーのもとに、逃げ出した自分の影を取りにやってきた『ピーターパン』の話を思い出す。A地点からB地点に動いた軌跡、その時間や変化が可視化されていくのだ。

注:4

《ゆっくり動く影》

Olafur Eliasson Slow-motion shadow, 2009 HMI lamps, steel Dimensions variable Courtesy of the artist and Gallery Koyanagi, Tokyo Photo: Studio Olafur Eliasson © 2009 Olafur Eliasson 

----- clear -----

 

                              《見えないものが見えてくる》(注:5)

この美術館の中で9mという天井の高さのとても美しい展示室には、薄っすらと霧が立ち込めている。中央奥にあるガラスケースをスポットライトが突き刺すように照らしているのだが、ガラスケースの中だけ光が消失している。手品のような、スタンリー・キューブリックの映画『2001年宇宙の旅』のワンシーンのような作品、それが《見えないものが見えてくる》(注:5)である。「光」って何だろう。「間」って何だろう。たくさんの「?」が思い浮かぶ。

 注:5

《見えないものが見えてくる》

Olafur Eliasson Your making things explicit, 2009 Installation view at “Olafur Eliasson Your chance encounter” (2009-10) Organized by 21st Century Museum of Contemporary Art, Kanazawa Courtesy of the artist, Gallery Koyanagi, Tokyo, neugerriemschneider, Berlin, and Tanya Bonakdar Gallery, New York © 2009 Olafur Eliasson Photo: Keizo Kioku

----- clear -----

 

                                        《水の彩るあなたの水平線》

 

《水の彩るあなたの水平線》(注:6)は、個人的には最も気に入った作品。まるで宇宙に放り出されたような、地球の薄い成層圏にいるような、包まれるアート好きにはたまらないシチュエーションだ。暗い入り口の足元には小さな踏み台がある。何かの儀式のようにそこを踏み進むと、ガコンと音がして一瞬ふらっとする。その入場者の作品世界への第一歩(踏みの振動)が目前のプールの水面に伝わるようになっていて、プール中央の光の波が水面を通して周囲の壁に映し出される。360度の虹の水平線は水面を扇げば、さらに美しい揺らぎを見せてくれる。

注:6 

《水の彩るあなたの水平線》

Olafur Eliasson Your watercolour horizon, 2009 Installation view at “Olafur Eliasson Your chance encounter” (2009-10) Organized by 21st Century Museum of Contemporary Art, Kanazawa Courtesy of the artist and Gallery Koyanagi, Tokyo © 2009 Olafur Eliasson Photo: Keizo Kioku;

----- clear -----

 

                          《水の彩るあなたの水平線》 部分(注:7)

 

この作品の展示空間は、本当に美しくて、ずっと佇んでなかなか出てこない鑑賞者もいた。私も一日ここに居てもいいなと思ったくらいである。そこで私が思い起こしたのは、Mr. Childrenの曲とともにスペースシャトルから地球を映した、日清カップヌードルの宇宙CMシリーズ『NO BORDER 地球篇』(注:8)。CM内の「そこで世界は変った♪」のフレーズの時に、日出ずる瞬間に見える地球の表層の太陽光は、この作品の水平線に似ている。鑑賞者の一踏みが揺れとして水平線に伝わるとき、一人の何気ない一歩が環境に影響を与えてオゾン層破壊につながってしまうかも・・・と妙なエコ思想にまで繋がったりする作品でもあった。

 注:7

《水の彩るあなたの水平線》部分

Olafur Eliasson Your watercolour horizon, detail, 2009 Stainless steel, steel, wood, rubber, water, glass prism, HMI lamp Dimensions variable Courtesy of the artist and Gallery Koyanagi, Tokyo Photo: Studio Olafur Eliasson © 2009 Olafur Eliasson

 -------------------------------

注:8

日清カップヌードルの宇宙CMシリーズ 『NO BORDER 地球篇』

http://www.youtube.com/watch?v=lAWY6xTqVWY

----- clear -----

 

                                    《あなたが創りだす大気の色地図》

 

《あなたが創りだす大気の色地図》(注:9)は、文句なしの体感型アートで、コンピューター上のユーザー設定の色相の中に包まれた感じの作品だ。入ると多くの人が「うぁ~何これ!」と感嘆の声をあげる。青・赤・緑ともみじの生麩(注:10)のように空間に色付けがなされていて、空間における人との関係性が可視化される。遠くに離れていくと次第に姿が薄らいでいき、色の中に人が消えていってしまうのは何とも幻想的!

この作品は、恒久展示で金沢21世紀美術館でも大人気の作品、レアンドロ・エルリッヒ作《スイミング・プール》(注11)の水面下への通り道にもなっていて、恒久展示の鑑賞者がおまけで特別展示のエリアソンの作品も体験できるようになっている。それゆえ、人の出入りが激しいのだが、そのことがまた、この作品を生かしているともいえる。

これらの参加型の作品をはじめとして、エリアソン作品全般に言えることではあるのだが、空間と鑑賞者のアットランダムな参加の交わりを利用した作品たちは、ほとんどコンテンポラリーダンスの舞台のようだ。参加するも良し!その真似をしてみたり、別の方法を試すも良し!参加者たちを遠くから観るも良し!の3通りの楽しみ方がある。エリアソン自身、観客と作品の間に成立する相互作用(作品の経験)、作品と施設(空間)の同時体験、観客が第三者の視点から自己を見る機会の設定、といったことに、かなり注意を払って作品制作と展示に挑んでいるのだろう。

注:9

 《あなたが創りだす大気の色地図》

Olafur Eliasson Your atmospheric colour atlas, 2009 Fluorescent lights, aluminium, steel, haze machine Dimensions variable Courtesy of the artist and Gallery Koyanagi, Tokyo Photo: Studio Olafur Eliasson © 2009 Olafur Eliasson -------------------------------

注:10

もじみの生麩

http://thumbnail.image.rakuten.co.jp/s/?@0_mall/gionkanematsu/cabinet/ikou_ 20090519/img10444507476.jpg

-------------------------------

注:11

 《スイミング・プール》The Swimming Pool

美術館中庭に設置されたプール。水が張られたガラスの下に空間があって、下の空間に入れるようになっている。アルゼンチンの作家、レアンドロ・エルリッヒの2004年制作作品。

----- clear -----

 

固有の時間

 

                                        《動きが決める物のかたち》

 

《動きが決める物のかたち》(注:12)は、3種類の噴水にストロボライトを点滅させることで、流れる水が静止した氷のように見える作品だ。映画のフィルムのように時間は一枚一枚の、一瞬一瞬の時の積み重ねであることを感じる。

 注:12

《動きが決める物のかたち》

 Olafur Eliasson Object defined by activity, 2009 Installation view at “Olafur Eliasson Your chance encounter” (2009-10) Organized by 21st Century Museum of Contemporary Art, Kanazawa Courtesy of the artist and Gallery Koyanagi, Tokyo © 2009 Olafur Eliasson Photo: Keizo Kioku

----- clear -----

 

                                      《アイ・アクティヴィティ・ライン》

 

《アイ・アクティヴィティ・ライン》(注:13)は、60メートルちかくにわたって並べられた光のスペクトルだ。全体を通して眺めるとその変化がわかるのだが、一枚一枚の板の隣同士を比較しても、その違いは肉眼では見分けがつかない。微分化していく時の流れを感じながら歩いていく。「どこまでが黄色と思いますか?」というギャラリー・ツアーでの問いに答える鑑賞者の声をきくと、先の『MoMAの白』のような色彩感覚の個人差がいかに大きいかを再認識させられた。

(3/3へつづきます!)

 注:13

《アイ・アクティヴィティ・ライン》

 Olafur Eliasson Eye activity line, 2009 Installation view at “Olafur Eliasson Your chance encounter” (2009-10) Organized by 21st Century Museum of Contemporary Art, Kanazawa Courtesy of the artist and Gallery Koyanagi, Tokyo © 2009 Olafur Eliasson Photo: Keizo Kioku

-------------------------------

使用画像について

この記事で使用されている画像は、すべて金沢21世紀美術館からご提供いただきました。

画像の転載は禁止です。

-------------------------------

----- clear -----

 


10/04/30 00:11 | コメント(0) | トラックバック(0) このエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーのはてなブックマーク数 Buzzurlへ追加このエントリーのBuzzurlブックマーク数 livedoorクリップへ追加このエントリーのlivedoorクリップ数 Yahoo!ブックマークへ追加人が登録 POOKMARK Airlinesへ追加 Saafへ追加 ニフティクリップへ追加 add to del.icio.us add to Digg add to Reddit

« ドネルモ.func(1)... | 神楽舞う、その手が触れる... »

関連記事

| オラファー・エリアソン ─ あなたが出会うとき (4) インタビュー | オラファー・エリアソン ─ あなたが出会うとき (1) | [10.10.29]donner le mot × OUR Talk Event 『2020年代のアートって。』 | [10.08.13]BOOKSTEADY lesson.1「ドゥルーズレッスン」講師:古賀徹 | なぜにそもそもアートに関わるのか @【ドネルモアーカイブ】 | ドネルモ.func(2)「シミュラークルとしての安室奈美恵」Part.2 講師:古賀徹 |


トラックバック(0)

トラックバックURL: http://donnerlemot.com/mt/mt-tb.cgi/686

コメントする