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オラファー・エリアソン ─ あなたが出会うとき (3)


オラファー・エリアソン(Your atmospheric colour atlas_3(resize).jpg)

                                《あなたが創りだす大気の色地図》(注:1)

 

Text: 中村幸

色や光を駆使した作品によって、人間の知覚の仕組みに問いかける作品で知られる現代美術作家、オラファー・エリアソン(以下:エリアソン)(注:2)。金沢21世紀美術館で大規模な個展「Olafur Eliasson Your chance encounter / オラファー・エリアソン - あなたが出会うとき」が開催されました。そこで遠路はるばる、福岡から金沢へ。全4回にわたって、金沢21世紀美術館の紹介や展覧会のレビュー、そして学芸員の黒澤浩美さんへのインタビューをお送りします。

 

 

あなたの時間・私の時間~美術館が社会や環境と関わる可能性~

世界は決して静止しているわけではなく、常になにものかになる途上にあり、振動と波長はこのことをぼくらに認識させる手がかりにもなりうる。(オラファー・エリアソンとイナ・ブロム(注:3)の対話 「明るい影」(『参画』所収) P.17)

エリアソンが、作品や美術館という施設(美術の経験)を通して、観客に新たなレベルでの現実や環境との関わり方を示唆しているのは、ステートメントからも明らかなように思う。しかし、展示やステートメントの内容だけでは、エリアソンがどういった考えの下で、作品を制作し、それがある種の政治的な意味をもつに至るのか、わたし自身、身体的には何かしら触発された部分も多かったのだが、理論的には分かりにくい部分があった。

それを埋める可能性を感じたのが、原美術館のカタログ(『参画』)(注:4)のエリアソンの論文「波動」である。ただこの論文は、このレビューで参照するには比較的硬い内容となっているので、わたしなりの解釈で要約している。これまでの作品や感想と併せてみるとステートメントの理解も深まるのではないかと思う。是非、現物を読んでみていただきたい。

注:1

《あなたが創りだす大気の色地図》

Olafur Eliasson Your atmospheric colour atlas, 2009 Fluorescent lights, aluminium, steel, haze machineDimensions variable Courtesy of the artist and Gallery Koyanagi, Tokyo Photo: Studio Olafur Eliasson © 2009 Olafur Eliasson

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注:2

オラファー・エリアソン(Olafur Eliasson)

1967年コペンハーゲン生まれ、現在ベルリンとコペンハーゲンに在住。1989年から1995年まで、王立デンマーク芸術アカデミーで学ぶ。1995年ヴェネツィア・ビエンナーレに初参加以来、シドニー・ビエンナーレ、サンパウロ・ビエンナーレ(いずれも1998年)、横浜トリエンナーレ(2001年)など、世界的な国際展に招かれている。欧米の主要美術館において個展を多数開催する中、2003年、テート・モダン(ロンドン)のタービン・ホールで発表した《The Weather Project(ウェーザー・プロジェクト)》は、特に大きな成功を納め、日本においても広くその名を知らしめることになった。自然界におけるさまざまな要素—光、影、色、霧、風、波を作品に取り込み、鑑賞者の視覚や認識を揺り動かすことについて定評がある。パブリック・アートの代表例としては、2008年にニューヨークのウォーター・フロントに4基の人工の滝を出現させ、作品をとりまく環境との関係をダイナミックに表現したものとして記憶に新しい。他に、自然界の様々な現象や形に関心を持ち、鏡面の多面体の内部に入り、光や像の屈折を楽しむ作品などもあり、そのうちのひとつ《La situazione antispettiva(反視的状況)》(2003年)は金沢21世紀美術館のコレクションにも加えられている。2009年10月にはハラ ミュージアム アーク(群馬)で新しい屋外設置作品も公開された。

■http://www.haramuseum.or.jp

■オラファー・エリアソン公式WEBサイト  http://www.olafureliasson.net/

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                                        《あなたが出会うとき》(注:5)

エリアソンは、近代社会が共通の普遍的な空間を作るために設定した約束事が、多くの組織、関係、状況、思想からそれぞれに馴染みの時間を奪い去ったと考える。そういった状況が、人々に対して、世界を、自分たちとは無関係の、普遍的・固定的な真実として存在しているように感じさせている、と。そうした状況に対して、エリアソンは世界をもっと私たちに引き寄せて、かつ相対的に捉えることを奨めたいのだろう。

人や物や空間(環境)との相互作用(対話)の可能性を見出すにあたって、そうした可能性へと開かれた感覚を呼び覚ますために、エリアソンは、人や物が振動し、波を出していると想定する。そこで想定されているのは、普遍的・共通的・固定的ではなく、常に変化する各々の生の個々の関係性〈あなたの時間、わたしの時間〉だ。

その関係性へと開かれることで、周囲の環境に対して自分が与える影響が見て取れるようになる。そうしてはじめて因果関係が実感され、それを通じて、外部の環境に対する責任や倫理を持つことにつながっていく。エリアソンが論文中で度々推奨する、おそらくオリジナルの理論〈YES (Your Engagement Sequence:あなたの関係のしかたの因果的連鎖)〉という考えは、世界を相対的に再評価していく理論の中枢だと思う。

YESを認知の中心的要素に採り入れれば、時間を超越するもの、あるいは物体の静的なありかた等の支配的教理の見直しが行われ、あなたにも具体的な状況に積極的に関わる責任のあることが明らかになる。―――関係は因果的な帰結を導き、責任を必然的にともなう。(オラファー・エリアソン「波動」(『参画』所収) P.5)

注:3

イナ・ブロム(Ina Blom

オスロ大学哲学・古典・美術思想史学部助教授。

注:4

『オラファー・エリアソン/きみの参画がもたらすもの・きみのリアリティの相対性について』

2005年から2006年にかけて、原美術館、ボイマンス・ファン・ブーニンヘン美術館(オランダ)、マルモ美術館(スウェーデン)の3館で開催されたエリアソンの個展の様子をまとめている。英文はもちろん和文小冊子のデザインもエリアソン自身による監修でまとめられており、作品写真のみならず、論文や対談も収録したボリュームのある1冊。Lars Müller Publisher社より刊行された304ページ・ハードカバーの英文カタログに、原美術館では掲載論文、対談を和訳した小冊子を編集、英文カタログとセット。掲載テキスト:オラファー エリアソン論文「波動」オラファー・エリアソンとイナ・ブロムの対話「明るい影」、マーク・ウィグリー、オラファー・エリアソン、ダニエル・ビルンバウムの鼎談、他

注:5

《あなたが出会うとき》

Olafur Eliasson Your chance encounter, 2009 Installation view at “Olafur Eliasson Your chance encounter” (2009-10) Organized by 21st Century Museum of Contemporary Art, Kanazawa Courtesy of the artist and Gallery Koyanagi, Tokyo © 2009 Olafur Eliasson Photo: Keizo Kioku

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オラファー・エリアソン(Your watercolour horizon(resize).jpg)

                                            《水の彩るあなたの水平線》(注:6)

エリアソンは、美術館が、作品体験における個人的な価値判断、感覚、思考の余地を残さないような、一般化された非・時間的な思想や経験を支持しすることのないように努めるべきだと主張する。時間を消失し商品化された経験が溢れる状況の中、エリアソンは〈YES〉の導入により生まれる体験が、人々に倫理的価値観や内省を喚起し、そのことが多様な個人の在り方を受容する環境を創り出す契機になることを望んでいるのではないだろうか。そういった作品体験の感覚は、人びとの身体に保存され、美術館を超え、公共の場や多くの空間や環境において個々の新たなセッションを生み出すだろう。

 私がこの論文を読んだのは、金沢から帰ってきてからで、鑑賞は予備知識なしで体験した。しかし鑑賞後、金沢から帰ってくる車内で見た景色、はたまたいつも見ている番組が、身体の中にストンと入ってくるという風に外部の現象と自らの心の直通ラインが築かれたようなコンディションになった。それは長くは続かなかったが、外部の微弱な発信物を強力にキャッチできる準備ができている状態というか、感応する健康な身体を取り戻したような、とても気分の良い状態だった。

エリアソンの理論は堅苦しく感じるかもしれないが、鑑賞者の関与とともに生まれる現象的な作品たちは文句なしに美しく、身体のそこかしこに感覚が残る幼いころの記憶のようだ。〈あなたの時間、わたしの時間〉を感じて世界をフレッシュに捉えなおし続ける。そうやって世界と関わっていくのは、ある意味エコだと思う。多くの新しいものを求めなくても、今、ここに常に変化し捉えなおすべき世界が身の回りにたくさんあるのだから。

 

さて、長く作品についての感想を述べてまいりましたが、次回は、本企画の担当学芸員の黒澤浩美さんへのインタビューをお送りします。ご期待ください!

 注:6

《水の彩るあなたの水平線》

Olafur Eliasson Your watercolour horizon, 2009 Installation view at “Olafur Eliasson Your chance encounter” (2009-10) Organized by 21st Century Museum of Contemporary Art, Kanazawa Courtesy of the artist and Gallery Koyanagi, Tokyo © 2009 Olafur Eliasson Photo: Keizo Kioku;

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使用画像について

この記事で使用されている画像は、すべて金沢21世紀美術館からご提供いただきました。画像の転載は禁止です。

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