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声ゲーというジャンル-アマガミされる耳[ドネルモアーカイブ]


テキスト:笹野正和

このブPS2用ゲームソフト『アマガミ』(制作:エンターブレイン)は、高校 を舞台に6人の女子高生との出会いから恋愛に至るまでの過程を疑似体験する恋愛シミュレーションである。恋愛が上手く進展すれば、ヒロインたちと様々な所 を甘噛みしたりされたりできる、至上の作品である(といっても、妄想をたくましくするなかれ。一般向けの極めて健全な内容で、主人公は「紳士」と呼ばれる ほど。従って、ピュアな恋愛を求める青少年にもお薦めできる)。

この作品は、甘噛みにスポットを当てた点だけでも特筆すべきゲームである が、しかしそれ以上に、このゲームで最も注目すべきは、「声」であろう。つまり、声優のあてる声によって、このゲームの魅力が倍増しているように思われる のだ。それは通常、ゲームに対して、ストーリーやビジュアルを重視し、声の存在にそれほど関心を持たないユーザーにすら、ゲームにおける声の必要性と声優 の重要性を認識させるほどのレベルだったと思われる。

 

アマガミ表紙.jpgのサムネール画像

 

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通常、恋愛シミュレーションゲームに限らず、キャラクタの魅力を伝えるのに最もポピュラーな手段としてはグラフィックとテキストが考えられる(漫画やライトノベルといったジャンルは、この二つで構成されている)。そしてこれらを補強する要素として音声が追加される。いわばグラフィックや文字が主、音声が従である。とりわけアニメなどは、グラフィックの連続的変化によってキャラクタをアニメイト(生き生きと)させる点で、グラフィックが主となる代表的メディアといえるだろう。

ほとんどの恋愛シミュレーションもまたグラフィック抜きには成立しない。そしてその評価において重視されるのも、キャラクターデザインであったり、世界観であったりする。これは別に音声がまったく不要とされているというのではない。事実、最近ではゲームに声があてられていること自体は特別なことではない。ゲームに本格的に音声が当てられ始めたのは最近10年ほどのことだ。しかしデータ容量などの技術的制約から解放された現在では、全編フルボイスが当然になっている。そのためゲームの大部分で音声がついてくるのだが、それがゲームの骨格を担うまでに重要な役割を占めていることは少ないと思われる。

そんな中で、『アマガミ』が特筆すべきなのは、各声優の演技が作品の質を変えるほどの高い水準を達成していると思われることだ。その結果として、声の存在がグラフィックやテキストによるキャラクタの描写をリードするほどに際立っている。各場面ごとに声優が使い分ける声によって、グラフィックやテキスト以上に雄弁に、そのキャラクタの感情なり主人公との関係性なりが語られているわけだ。

テキストであれば「からかうように」とか「気落ちした様子で」という描写で済まされてしまうような場面でも、声の高低や大小はもちろん、妙な間をとることやイントネーションに凝ることで、異常に豊かな表情づけがなされることになる。この声の織り成す微妙なニュアンスの襞によって、そのキャラクタの性格・感情・態度などが第一に決定される、と言っても過言ではない。

プレイしていると、いつのまにかユーザーは、視覚的な面よりも、むしろキャラクタの声に聴き入っていることに気付くだろう。その意味で、ここでは音声が主、グラフィックや文字が従となっている。アニメのように画面の連続的な変化がなく、基本的に静止画(グラフィックとテキスト)で進行していく恋愛シミュレーションゲームにとって、この音声の水準の高さこそ、アニメとは別の形でキャラクタを生き生きと感じさせる有効な手段なのだ。

具体例をあげれば、特に七咲逢を演じるゆかな氏のささやくような声は、まさに「アマガミされる耳」を実感させてくれるウィスパーボイスである。七咲は先輩である主人公に対して、いささか小悪魔的な素振りで翻弄してくるのだが、同時にその行動はどこかあどけなさが残っており憎めない。そのえもいわれぬニュアンスを、ゆかな氏の声は何よりも雄弁にプレイヤーへと伝える。そのイメージ伝達能力は、グラフィックと同等、あるいはそれ以上である。このグラフィックと声が相互に高め合う関係は、キャラクタデザインを担当した高山箕犀(きさい)氏本人が声優を指定した、という話からも納得できるだろう(*1)。

他にも絢辻詞(つかさ)役の名塚佳織氏が主人公をなじる際の厳しくもある種の親しみがこもった声、桜井里穂子役の新谷良子氏が紡ぐふんわりとして、場の空気を和ませるような声など、枚挙に暇(いとま)がない。これまでビジュアル中心にゲームやアニメを評価してきた筆者にとって、そのインパクトはかなり劇的なものだった。

だが翻って考えてみれば、音声がキャラクタや作品の質を第一に決定する要素であることは、なんら不思議な話ではない。たとえばドラマCDなどはその典型であろう。音楽や効果音だけを背景に何らかのキャラクタに扮した声優が一時間しゃべり続けるドラマCDにおいては、メディアのあり方からして声が最も注目を浴びていると考えられる。そうした声に固有の魅力を最大限発揮しえた、しかもテキストやグラフィックといった他のメディアに従う形ではない、という点で、『アマガミ』は恋愛ゲームに新しい命を吹き込んだといえよう。ここにひとつの「声ゲー」が誕生したわけである。

(first updated date:2009/4/16)

 

アマガミ プレイ動画.jpg

『アマガミ』のプレイ画面。画面はキャラクターグラフィックとテキストで構成されている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

七咲逢との会話シーン。テキストでは表しにくいニュアンスも、一瞬の演技の中で印象的に表現されている。

 

 

(*1)ウィキペディアにおける高山箕犀・人物像の項を参照。

 


 

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(2010年夏にはTBSでアニメ『アマガミSS』が放送予定である(公式サイト)。声の 魅力はそのままに、今度は動画とどのような融合が行われるのか注目したい。)

 



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