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なぜにそもそもアートに関わるのか @【ドネルモアーカイブ】


text:古賀徹

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20世紀にピークを迎えたモダニズム芸術を規定する図式は、それが制度側か、それとも制度に対抗する自由なアヴァンギャルドか、というものでした。アートには前衛であることが求められ、形骸化した権力である制度を批判しそれを乗り越えるところに独創性が息づくと主張されました。そして社会運動もまた、国家権力や企業という「体制」の悪に抵抗して歴史を前進させる前衛主義に規定されていました。そうした図式の全面的転換を印づける古典的作品とも言えるのが、土本典昭監督のわが街わが青春 - 石川さゆり水俣熱唱」です。

 

この作品は、成人の頃を迎えた胎児性水俣病の患者の人たちが、自分 たちに何かできることはないかと、地元熊本出身の石川さゆりのコンサートを企画するプロセスを作品化したドキュメンタリー・フィルムです。この作品に登場するコンサートの企画者たちは、同じ胎児性患者の生活拠点となっている「明水園」の仲間のために「石川さゆり」を呼ぼうとします。そして企画やチケット売りといったプロセスのなかで、見知らぬ土地を訪ね、新しい人との出会いを重ねてゆくのです。映画は、そのプロセスにこそアートの価値があると主張しているかのようです。

これまでのアートは、そうした企画のプロセスを問題とせず、もっぱら作品の「質」で勝負しようとします。そしてその作品は、誰でもない誰か、つまり作品を評価する公衆に向けられています。しかしここで石川さゆりの「津軽海峡冬景色」をそうした視線で評価しても何の意味もないでしょう。重要なのは、日頃生活の中にとらわれ、孤独なまま埋没しがちな人たちが、そうした生活に規定されつつもそれを乗り越え、新しい人とのつながりを求めて行動するその苦闘と喜びの過程の方なのです。そしてそれを支えているのは、自分の身近にいる人の、具体的な笑顔のためという動機です。

「オニユウ」と呼ばれる少年の抱える頭痛、それは生活とアートの境界を象徴するものとなっています。チケットを売り歩く活動の中で、その頭痛は、ときに消えたり、また生まれたりするのです。身近な人のために、自分の生活をひきずりつつ、何かを表現する、そのアマチュアリズムの高貴さに光が当てられます。

そして同時にこの作品は、もはやチッソや行政との対決だけが水俣病の運動ではないことを宣言するものとなっています。もはや制度との対決ではなく、人をつなぎ、そのつながりを表現すること、その中で自分が変化し成長すること、それこそが社会運動の中枢を形成すべきことを映画は表現しているように見えてしまいます。そこでは、「ホリプロダクション」やチッソの社員や行政の担当者といったものすら、ともに企画を実現する協力者になりうるのです。

そこにあるのは、歴史でもなく、対決でも批判でもなく、独創性でもありません。その代わりに追求されているのは「地域」という思想です。映画からは、そうした意味での「地域」におそらくははじめて直面したであろう石川さゆりの戸惑いと、それに応えようとする気概を感じ取ることができます。

この映画における監督の視線は、胎児性の患者の人たちから距離をとりつつ、しかも暖かいものとなっています。映画の終わりのところで監督の見方が示されます。このコンサートは「自分たちに何ができるか、そして何ができないかを思い知る」そうしたほろ苦いものになったというのです。そのほろ苦さは、今日、生活を抱えながら、それでもなお何かを、その地域のために企画しようとする多くの人にも、共感を呼ぶもののように私には思われるのです。

【updated date:2006/11/20】

 

 


 

 

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10/06/11 01:45 | コメント(0) | トラックバック(0) このエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーのはてなブックマーク数 Buzzurlへ追加このエントリーのBuzzurlブックマーク数 livedoorクリップへ追加このエントリーのlivedoorクリップ数 Yahoo!ブックマークへ追加人が登録 POOKMARK Airlinesへ追加 Saafへ追加 ニフティクリップへ追加 add to del.icio.us add to Digg add to Reddit

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