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音楽クリエイター・クサノユウキ インタビュー Part2(連続3回)


イリジウム最新写真.jpg

大変長らくお待たせいたしました。福岡の「作曲屋」さんこと音楽クリエイター・クサノユウキさんへのインタビュー第2弾です。


インタビュイ―:クサノユウキ
インタビュアー:笹野正和
トランスクライブ:佐々木まどか
構成:笹野正和

(2010年2月17日@福岡・大橋)

前回は、クサノさんの音楽の原体験から高校時代のバンド活動などを経て、音楽ユニット「イリジウム」と音楽制作事業「77works」立ち上げに至る経緯を、その時々で影響を受けた音楽・映像作品の感想を交えて、お話いただきました。(Part1はこちら

今回は、イリジウムの名を一躍有名にしたゲーム『戦極姫』や『萌え萌え2次大戦(略)』主題歌の作られた経緯や音作りの特徴について伺いました。そして話題は、ゲームの作られ方と音作りの関係性、福岡でのゲーム・イラスト等の創作環境や今後の課題にまで広がっていきました。では、本編に参ります。どうぞ!

  (上写真)音楽ユニット「イリジウム」


『戦極姫』主題歌とイリジウムへの思い入れ 

ドネルモ
『戦極姫』や『萌え萌え2次大戦(略)』(以下、『萌え2次』『萌え戦』等と略す場合も同様)の主題歌が、大きな業績としてイリジウムさん、あるいはクサノさんにあります。そこで、それらに至る経緯や、音作りに対する姿勢などについて、お話いただけますか?

クサノ
『戦極姫』の話をもらったのは、先ほど言ったインビジさんの流れじゃなくて、イリジウムの最初のCD制作に関わってくれた松本さんという方からです。この方は、フリーでマスタリングとかエンジニア作業をやってらっしゃる方です。

その人の紹介で、「あなた達の曲は気が利いてるから、(システムソフト・アルファー社のゲームの)主題歌に推してみようと思うけど、どう?」という風に言われたんです。こっちはもう願ったり叶ったりなんで、「ぜひ!」と。特に最初のタイトルの『戦極姫』、要は戦国シミュレーションなわけですよ。僕がちっちゃい頃から聴いてきた、菅野よう子の『信長の野望』、あのジャンルなんですよ。それは「やらいでか!」という話になります。で、実際に会って、話を聞いてみると、「ああ、これは、くだらない」と。もちろん、いい意味で。

ドネルモ
(笑)そうですね。

クサノ
もう「くだらない」は誉め言葉なんで。ちょっと話は逸れますが、中学・高校時代に母校で講演してくださった呉智英(*1)さんが、「くだらない」というのは実は良いことだけど、一方で「つまらない」というのは駄目なことだ、という風に言われていた。それがすごく心の中にあるんです。これはくだらないから、きっと凄い力を内包してるものなんだ、と完璧にポジティブに捉えて、「ぜひ、やりましょう!」と。

ドネルモ
なるほど、こだわりはなく?

クサノ
そうですね。「そのままのイリジウムって名前で出しちゃっていいのかな、どうかな?」という話は、結構あったんです。でも、そのままでやりました。それには「名前を売ってナンボだ」というのが一つありました。あとは、例えばアダルトゲームだからといって、自分たちが一歩引いてしまうような作品には、むしろ関わるべきじゃないだろう、と。「そんな後ろめたいものを、最初の取っ掛かりとしてやって、面白いもんかね?」という感覚があった訳ですよね。

古い話ですが、ビートたけしは下積みの頃に、浅草のストリップ小屋で働いていた。だけど、そこを黒歴史にしないところがビートたけしの美しさだ、ということがある。だから、絶対これは「イリジウム」という名前でずっと出そう、何があっても。そういう気持ちがあります。

あとは、例えば昔の特撮ですね。平成になってからは、また違うんですけど、昔の特撮で主演とか準主演をやってた人がボーンと売れてしまって、それからヒーロー物に出てた過去を隠したがる流れがありました。

当時は多分、そういう空気で仕方ないとは思うんですけど、(イリジウムを)そういう目には合わせたくない、と思ったんです。イリジウムにも、この作品に関しても、後で「あれは無かったことに」と言うと、この話を持ってきた人に対して、すごく不義理だな、と思ったんです。だから「これはもうドンと出しましょう」と。

ドネルモ
「毒を食らわば皿まで」みたいな感じですね?

クサノ
ですね。もう皿まで食って踊ってしまえば、むしろ誰も文句は言わないだろう。ということで、もう大いに企画に乗っかって始めさせていただきました。

それで「こだわり」という風に言われましたが、ちょうど自分たちの多感な時期に、アニメのオープニング・エンディングに対してJ-POPのタイアップソングが、ボンボンボンと入ってきちゃった。それに対する抵抗、つまり「嫌いじゃないんだけど、でもアニソンって言うにはどうかしら?」というモヤモヤとしたものがありました。

だからもう、この際ゲームのプロットまでもらって、こちらもそれに大乗っかりして、作品を作ります、と。そういう古き良きアニソンの作り方で、作らせてもらいました。

作品と一体の音作り 

ドネルモ
内容と骨がらみというか、一体になったような音作りですね。音もそうだし、曲もそういう風にしたわけですか?

クサノ
そうですね。だから他の制作者さん(いわゆる音楽制作職人ではなく、アーティスト)が、どのような(音の)出され方をされてるのか、分からないです。

ただ、この『戦極姫』だけでなく、他のゲーム関係の曲を作るときにも、最初に時間をかけて固めるのが、コンセプト(概念)なんですよね。音的なものじゃなくて、まず概念を固めてしまう。そして、アニメーションやマンガ作品なら、イメージボードにあたるようなものをまず一枚ポンと作る。そのような感じで、「こんな音にしよう」というのをまず固めてしまう。そこから実際の曲の具体的なところに落とし込んでいく。

ドネルモ
メロディというより、1フレーズ(*2)くらいのものを作る。そして、音のイメージボードみたいなものを作るわけですか?

クサノ
そうですね。なんとなく、こんな感じのものを作ることが決まっていて、肉付けをしていく、という作業でしたね。「きっとサビが肝なんだ」というのも、ぼんやり持ちながら。

ドネルモ
すごく印象的な音楽ですよね。熱血と言っていいのか分かりませんが、闘う時のある種の切なさとかも入っているように思います。

対話から生まれる作品作り 

クサノ
そこはもう、向こうから「出して」と言われた部分でもあります。あとは、タカセのこだわりがものすごく入っていて、それが非常に心強いところです。

どうしてもゲーム制作とかは、男職場なわけですよ。それで、男フィルターを通して出される女の子像は、やっぱり女の子が作る女の子像とは若干ズレがある。ズレがあるけど、完璧な他者という存在でもなくて、(互いに)リンクしてるところもある。そこをうまいこと出せたら面白いな、という思いがありました。

だから、ある程度プロットとしてはもらっていたけど、「(タカセ:)私がこの歌の主人公(=女性)だったらこういう風には感じない。こうだ!」という感じで、イメージや話の流れを(2人で)話し合うんです。それは歌詞の流れにもなりますし、曲の流れにもなります。そういう風に展開されていくと、ちょっと面白い。ひょっとしたら、典型的なスタイルでは無いのかもしれないけれど、そういう構成法をとってますね。

女流というか、女の人が加わっているからこそできる表現。ちょうど今、目の前に『けいおん!』がありますけど、『けいおん!』のアニメの方の制作スタッフって、すごく女の方が関わってらっしゃるらしい。何かやっぱり違うんですよね、空気として。

ドネルモ
『らき☆すた』(*3)とかと一緒にされなくもないんだけど。雰囲気とか絵柄も含めて、全体的な作品の像として、やっぱり普通に男性スタッフがメインで作るのとは違う、独特な雰囲気がありますよね。

クサノ
あらかじめ原作物なので、記号として絶対にキャラは存在してるはずなんです。だけどどこか、記号からちょっと外に突き抜けよう、生身に近づこう、というパワーは感じますね。そこの部分で、ちょっと一貫性が破綻するようになるのかも知れませんけど。何か、そこら辺は感じましたね。でもやっぱりそれが一番に出るのは、歌詞ですね。「Don’t say “lazy”」(*4)の歌詞を見たとき、「ああ、これは男には無理だ」と。

ドネルモ
そうか、なるほど。「Don’t say “lazy”」は、すごく影響を受けたり、「これは!」と思う感じですか?

クサノ
思いましたね。「これだ!」とは思うし、「ウチはこれじゃないな」とも思った。ただ、突き抜けようとする心意気に関しては、すごく共感するものがあります。イリジウムとしては、多分アプローチが違うんですよ。ただ『戦極姫』の「火群-ほむら-」の歌詞を、男が書けたかというと、多分書けない気がする、ということですね。

ドネルモ
これはタカセさんが作詞なんですね。共同作業みたいになってるわけですか?

クサノ
特に昔は、分業制というよりも、本当に良くも悪くも癒着した感じで作ってましたね。本当にいいユニットとして。「(タカセ:)歌詞をこう作った!」「(クサノ:)そうくるか。じゃあ曲はこうじゃ!」みたいな感じです。制作過程が、ミルクレープみたいな感じなんです。

ドネルモ
こう来たら、こう返す、という弁証法(*5)みたいな。

クサノ
弁証法的な。

ドネルモ
対話的な感じですね。単にこう作って、こう歌えって話じゃなく。なるほど。『戦極姫』が2008年ですか?

バラエティ豊かな作品―「エロゲー界のスーパーロボット大戦」(*6 

クサノ
2008年の11月発売ですね。それで制作を開始したのが、2008年の4月。それくらいから話をもらってました。

ドネルモ
半年…。それくらいのものですか?

クサノ
ええ、それくらいのものですね。

ドネルモ
なるほど。ただ、これは結構、野心作と言えば野心作で…。10人くらいの絵師さんがいて、『信長の野望』ばりのシステムで、結構大変だったんだろうな、と思ったんです。実際にユーザーからは、個々のグラフィックのムラやバグの多さを指摘する声も出た。

だから、これは非常に良い意味で、くだらない。だけどそれをモノにして、くだらない商品としてパッケージする。その時の苦労みたいなものは、やっぱり歌作りにも反映されてるのかな?と思ったんですが。

クサノ
ええ。時々、冗談で『戦極姫』を茶化して、「スーパーロボット大戦」って言ってるんです(笑)。「エロゲー界のスーパーロボット大戦」と。そうしたバラエティに富んでいるものが、ワッと渾然一体になって、ちょっとしたカオスになってる状態。

そのすごいエネルギーという(話をもらった時の)第一印象を、それとして出したかった。じゃあ、これをまとめきれるような、熱い曲じゃないと絶対に駄目なんだ、と思ったんです。だから意識したのは、それこそジャムプロの熱さ、「細かいところはいいんだよ!突き抜けろ!」というようなパワーですね。

ドネルモ
エネルギーが感じられるようなものですね?

クサノ
そうですね。

それで今度出る『戦極姫2』(※)というのは、実際に『戦極姫』というモノが世の中に出てしまった後に制作が始まった作品です。その間にどういうギャップというか、経緯があったかというと、やっぱり皆がどういう反応をしてるか見てるんですよね。

イリジウム側としては、初めは『戦極姫』シリーズを割と賑やかしのバラエティ路線として捉えてた部分があるんです。でも、いざ『戦極姫』が発売されてみると、やっぱりキャラに対する思い入れとかを感じてくれる人が、予想よりももっと多かったんです。それで、またこれが残酷というか、身も蓋も無いゲームシステムを取っていて、ザクザク切腹して死んでいくわけですよ。

ドネルモ
そうらしいですね。出奔したり、行方不明になったりするんですよね。

クサノ
そうなんですよ。これ、考えようによっては、すごく切ないゲームなんですよね。成長ストーリーでプラス、プラスの方向に流れていくんじゃなくて、例えば、あの『ヴィクトリー(ガンダム)』とか『イデオン』みたいに、割とバッドエンドに近い部分もある。そこら辺の切なさや、「あぁ、さようなら……」という一瞬の思い入れ、そういったイメージを『姫2』の曲では出してみよう、と。『2』をもう一回同じ路線で出して、熱いだけだったらつまらない、というのが元々ありましたし。

ドネルモ
前作の内容を逆手に取ったわけですね。かなり儚げで、切ない曲になっていて、良い曲だと思います。すると、キャラクタービジネスとしては、それなりに成功したわけですね?

クサノ
そうですね。キャラクタービジネスとしては、成功してると思います。ただ、派生商品がバリバリ出てるかというと、そうでもないんです。キャラクタービジネスとしても成功してるのは、多分『萌え萌え2次大戦(略)』の方になりますね。

ドネルモ
『萌え2次』は、(戦極姫と)時期的には割とパラレルなんですか?

クサノ
時期的には『萌え2次』のほうが長いです。(戦極姫は)『萌え2次』の成功例を受けて「じゃあ、ちょっと戦国ものでも」という風に食指を伸ばして、ついでに「ちょっと萌え2次(※非アダルトのギャルゲー)に似た展開はアレだから、アダルトサイドでもできるか、お試しでやってみよう」という企画だったと思うんです。

逆に、こっちの『萌え萌え2次大戦』というのは、一般ゲームの範疇を超えない範囲で色々やってみよう、という流れだったらしいです。

ドネルモ
システムソフトとしては、『戦極姫』の方が、ちょっと変化球だったわけですね。するとやっぱり、その時その時で音作りの仕方は変わってくるものなんですか?

曲調で和風の音楽にする工夫 

クサノ
そうですね。そこは「アーティストとしての一貫性はどうなんだ?」と必ず突っつかれるところでもあります。でも僕は、逆に「音楽は作品に寄り添っててなんぼだ」と思う。それこそ、昔のアニソン職人の人達の考え方と一緒にはなってくるので……(音作りは)変わりますね。

『戦極姫』の中で苦労した点、という風に言うと、一般的に落ち着きがちになるんですが、まず話します。それで、最初にどうやって戦国らしさを出そうかという時に、「和楽器にしてみました」とか「メロディラインを和っぽくしてみました」というのだと、ベタ過ぎる。「もう世の中にまんざらにあるな」ということで、まずそこをアウトにしたんです。

そうすると、何を出せてくるのか。例えば、今回演出してみたのは、歌詞(タカセ)へのオーダーで、「必ず七五調で作ってくれ」という点です。そして、「できれば古文体を意識してくれ」と。それで何を狙ってたかというと(別の記事にも書いたんですが)、この『戦極姫』のモチーフを、信長の幸若舞のところにぶつけていこう、と。そうすると、あの「人間五十年」になりますね。

そういう風に考えると、声は「詠めて」歌うもので、ポンポンポン、とリズムがいいものではない。そうすると、大体どういう風なメロディラインをとるかが決まっていきます。

現代的なものだと、ウラ拍でポンと入ってきて、リズミカルになっちゃう歌が多いんです。だけど(今回は)ほとんどオモテ拍でいこう、と。メロディをオモテ拍に併せて作ることで、「クラシックさ」と言うと変だけれども、ジャパニーズクラシック・和っぽさが出てくるもんだろう、と。

今だったら、こう「ツッタン、ツッタン」(とウラ拍を取る)ってやってますけど、一昔前の人は、こう「タン、タン」(とオモテ拍を取る)ってやっていた。もちろんウラ拍でもいけるけど、オモテ拍のリズムに合った曲というのを色々構築していこう、と考えました。そうして、その部分で和っぽさが出たら、楽器の和っぽさは、その分引っ込める、とか。

ドネルモ
「直接的」な楽器の和風はやめて、「曲調」で和風にする、ということですね?

クサノ
そうですね。つなぎ的なものは必要だから、とりあえずロックの楽器にも合うようなものは残しておきました。

それで、前例というかモチーフとして頭にあったのは「六三四(Musashi)」(*7)というバンドです。アニメの『NARUTO』や『筋肉番付』とかのBGMを作ってらっしゃる方々ですね。あの人たちは、普通のロックバンドの編成に、三味線と笛の類、あと尺八を入れた編成で、和モノのバンドをやってるんですよね。

じゃあ、その編成は使わせてもらおう、と。三味線と尺八、あとはポイントポイントに琴が入ると優雅にもなるので、その三つだけは使う。でもメインにはしなくて、あくまでも飾り。そういう感じで、バンド路線は押さえつつ、音作りをしてみました。

ドネルモ
そこにある種のハイブリッド性を出しているわけですね?

クサノ
そうですね。この『戦極姫』という作品自体も、こだわってないですからね。スク水(スクール水着)が出てきたり。

ドネルモ
(笑)そう、シャワーを浴びてたり。それこそ、戦国武将の名前は借りてるけど、キャラクターはほとんど一から、という感じですね。

クサノ
基本はそういう古典的なところにして、それをいい感じで崩していく。そういう風にすると、多分いい質感で(曲のイメージがゲームのイメージに)揃うんじゃないかな、というのがあったんです。

ドネルモ
音楽的にも、映像的にも大胆にアレンジしているわけですね、なるほど。

クサノ
感情が先だっていて、それを理詰めで埋めていく。そういう構築の仕方をしてますよね。

ドネルモ
確かに。アイデアを作った人は、かなり直感的なんでしょうね。

チームとしての作品制作 

クサノ
そうですね。最初はもう、システムソフトの中に「天才」というか、思いつきにすごく秀でた人がいるんです。ちょうど「ネプチューン」のホリケンみたいな感じで、ウィットに富んだ人がいた。その人が企画を作ってるんで、どうしてもそうなるんです。

この面白いネタという原石を、うまく膨らませればいいな、というプロジェクトの一環で色々考えてますね。そういう意味では、ライターさん達も含めて、我々は本当にチームなんですよね。

ドネルモ
ライターさんは、システムソフトが抱えてるというか、社員さんじゃないんですか?

クサノ
これは外注の方です。ライターさんの数名が、たまたま福岡に打ち合わせで来られた際には、「じゃあちょっとお茶でも」という形で、色々お話させてもらいました。

ドネルモ
あ、やっぱり点在されてるんですね(これは福岡でゲームを作ることと関わると思うので、後で触れます)。

そうすると、やっぱり二本柱というか、『戦極姫』と『萌え戦』というのは、今後も続いていくのかな?

クサノ
今後も続くといいなあ。

『萌え戦』は、今回「『2』をちょっとやってみない?」と投げられた形だったんです。他の人が『1』に関わった後の『2』というものに初めて触ったので、そこそこイメージをかぶらせつつも、「あわよくばその斜め上をいきたいなぁ」という気持ちがあったから、すごく勉強になりましたね。

ドネルモ
ゲーム内の曲は、別の方が作られてるんですよね?

クサノ
そうなんです。これもまた色々なところに発注をかける、絵と一緒のスタイルですね。

ドネルモ
ただ、絵ほどに色々な作曲家さんの名前が、バッと出てくるわけではないですよね。

クサノ
そうですね。

それでたまたま、この『萌え2次』の第1作の歌モノの作曲が、前のエンジニアをやっててくださった方(松本さん)だったんです。だから、そこら辺の感覚もだいたい共有させてもらえました。そして(『2』の)音の仕上げで、「お化粧」をしてもらう段階では、彼に全部の音を投げて、「『1』と雰囲気的にかぶるように、まとめてくれない?」とお願いしたりしました。

ドネルモ
本当に共同作業なんですね。

クサノ
そうですね。本当に「チーム」です。

ドネルモ
誰がオリジナルかも分からない、という状態に見える。その辺が、アーティストとして作る時と比べて違う感じですか?

クサノ
そうですね。でも、どの業界でも突き詰めていくと、そうなのかもしれません。一人で動かせるものには限りがありますからね。代表者1名の名前がボンッと表に出て、その人が広告塔になるという感じです。F1チームとF1パイロットみたいな関係だと思ってるので―。

ドネルモ
この業界がですか?

クサノ
この業界もそうですし、音楽制作でもそうですね。

作曲者とか歌の人が、代表者として表に出る。だけれど、やっぱり下支えしてくれる人を持ち上げたり、満足感を出したりする責任は、表に出る人たちが必ず持たないといけないと思うので―。多分どの自称「アーティスト」さんでも、そうでしょう。…本当は、音楽を作る人を「アーティスト」と呼ぶのは、あまり好きではないんです。

ドネルモ
というと?

クサノ
「アート」の感覚だけで作ってるわけじゃない、というのが一つ。あとは「アート」という風に言うと、ちょっと日常から遠くになっちゃう、というのがあります。

 

 

 

クサノユウキ・プロフィール

作編曲家・演奏家(ベース)。1979年生。九州大学大学院人間環境学府(教育学)修了。幼少時のピアノ聴音から絶対音感を培い、独学で作編曲を学ぶ。高校時代よりコンピュータ音楽に傾倒し、バンド活動を始める。2006年大学院在学中に、音楽ユニット「イリジウム」をタカセカヤ(ボーカル・作詞)と結成、ファーストマキシシングル「アルファ」でデビューし、音楽制作・ライブ活動を精力的に行う。イリジウムとしてTOSHI(X JAPAN)や声優・白石稔とイベントを同じくする。2008年、PCゲーム『戦極姫』OP曲「火群-ほむら-」で高い評価を得る。以降『萌え萌え2次大戦』シリーズOP曲、九州電力CM曲などを発表する。2009年、山元隼一監督の『熱血宇宙人』の音楽を担当し、同作品が「第14回アニメーション神戸」にて優秀賞を受賞する。一方で2008年から音楽制作事業「77works」を立ち上げる。現在、イリジウムとしてライブ活動を行う一方、77worksとして多様なジャンルでの音楽制作を展開している。

イリジウムHP http://iridium77.net/
77worksHP http://77works.com/
クサノユウキ ツイッター https://twitter.com/xano_yuuki

(Part1より転載)

 

(*1)呉智英(くれ・ともふさ、ご・ちえい)

評論家、1946年生まれ。日本マンガ学会会長。マンガに関する評論多数。現在は『論語』や『荘子』など中国古典を読む会を開いている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(*2)メロディとフレーズ

メロディ(旋律)は、通常ある程度の長さのある音のつらなり・まとまりで、何らかの内容・雰囲気を持っているもの。フレーズ(楽句)はメロディの中の一区切り。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(*3)『らき☆すた』

2007年放送のテレビアニメ。『けいおん!』と同じく、京都アニメーションが制作し、様々な個性的演出やキャラクター、主題歌が人気を呼び、大ヒット。女子高生の日常を描いた、まったりゆるゆる系作品の代名詞的存在となった。

らきすた(2) 限定版ジャケット.jpg

『らき☆すた』DVD限定版(2)ジャケットイラスト

©美水かがみ、京都アニメーション

(*4)「Don’t say “lazy”」

アニメ「けいおん!」のエンディング曲(作詞:大森祥子、作曲:前澤寛之)。メインキャラクターの1人、秋山澪(声:日笠陽子)がメインボーカルという設定で作られた。

スピーディな曲調と独特の歌詞がキャラクターの魅力と相まって話題となり、オリコンデイリーチャート1位(週間2位)の売上枚数を記録している。

(*5)弁証法

英語の“dialectic”の訳語。元々は「対話」「議論」を意味する哲学用語。対話から転じて、ある考えや説が、他の考えによって反論・反駁され、ダイナミックに変化していくあり方を意味するようにもなった。

「正」(ある説)に対して、「反」(反対の説)が出され、「合」(正と反を統合した説)が生まれる、というヘーゲルの弁証法などが有名。

 

 

(*6)『スーパーロボット大戦』

バンダイナムコゲームスが販売するシミュレーションRPGシリーズ。古今のロボットアニメから様々なロボットやキャラクターが出演し、作品を超えた戦闘シーンやドラマを展開することで、1991年の第1作発売以来、20年近く人気を博し続けている。公式の二次創作作品ともいえる。略称は『スパロボ』。

『スーパーロボット大戦NEO』PV

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(※)インタビュー当時は発売直前で、2月19日に発売された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(*7)六三四

三味線や太鼓など日本の伝統的楽器とギターやベースなど海外の楽器を組み合わせて演奏する音楽グループ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ゲーム・アニメのデザイン的な作り方 

ドネルモ
お話を聞いていると、特にゲームとかアニメは、デザインというものに凄く近い領域ですよね。

「作品」とは言うんだけど、「この人がオリジナルを作りました」という形じゃなくて、色んな人が関わって、色んな人が編集する。それで良いところを切り貼りして、全体の統一したものを作る。そういうシステムになってるんだろうな、と思うんです。

コマーシャル的には、例えば安室奈美恵とか坂本龍一という形で言わないといけないのかも知れないけど、本当に作ってる現場というのはそうでもない。

だからアニメ監督さんとかも、自分達が全部仕切ってるわけじゃなくて、ある種の調整役・コーディネーターとして、仮の名前として名前を出している、と言われる。やっぱり、原画さんとかのクオリティもそうだし、それぞれの体力がないと、全体としてはいいモノにならない、ということはよく聞きます。

クサノ
そうですね。名前やプロジェクトがいくら大きくなっても、トップの人の時間は有限なので、「アクティビティ・ポイントがグンと上がりました!」というゲームみたいにはならない。だから、大きくなればなるほど、それこそ個人の範疇をはみ出ればはみ出るほど、トップの色は絶対薄まるはずなんですよね。

音楽も戦国時代に突入してるので、ブランドを持ってたり、自分の名前がブランドになってる人はいいかもしれないですが…例えば、同じデザインでも“Gucci”と書いてあるのと書いてないのでは話が違いますよ、と。

ただレコード会社なども、自分の名前だけでは戦えなくなってるのは、どうも間違いないみたいですね。多分ゲーム会社も、自分の会社というより、むしろそれぞれのタイトルの方が強くなってるはずです。「どこどこの会社が出したものは鉄板」というのは、ぼちぼち怪しくなってきている。特に大きい会社はそうですね。制作元が違いますから。セガとかの作品、福岡でも作ってますもん。

ドネルモ
そうですよね。だから、今でこそ京都アニメーションは大きくなりましたけど、元々どこかの下請けだったとか。やっぱり実際はそういうところで作っているんですね。

ギャルゲーとコンピュータ音楽の親和性 

ドネルモ
ギャルゲー(*8)に話を戻すと、それはすごく小さいブランドで作れて、個々のプロジェクトとか作品で小回りが利くんだと思うんです。その他に特徴のようものは、クサノさんが関わられてみて、何か感じられますか?

クサノ
そうですね、特徴というと……。

ドネルモ
ギャルゲー(エロゲーとも言われますが)の歴史は浅くて、せいぜい20年ですよね。でもその割には、1つの文化・世界観というものがあるわけです。

この前、デルタポップエクスタシー(*9)に行って、たくさん曲を聴く機会がありました。僕は(エロゲーに)映像や物語から入ってたんですけど、曲だけで聴くと、どの曲もよくできている。独特の雰囲気というか、「泣きゲー」と言われるもののように、感動的な音楽がある。また熱血な音楽、戦闘モノ、ファンタジーとか色々なジャンルがあるんだけど、それぞれよくできている。

それには、コンピュータの力を借りてるというか、最大限生かしてるようなところがあって、コンピュータ音楽に対する抵抗は全くなく、むしろ親和性があるのかな、と思ったんですけど。

クサノ
相互作用的なものかもしれないですね。まず根本的なこととして、ギャルゲーの音楽は、一般ゲームと違って、どうしても低予算になっちゃう、というのが一面であります。

一般ゲームもそんなに高い予算ではなく、アニメとかCMと比べると、どうしても音楽に込める力(≒お金)の割合が低くなる。そうすると、演奏者を雇ってくるお金がない、ということになる。「じゃあ自前で打ち込んじゃうしかないだろう」という制限の下で、色々と工夫されている面もあるんですよね。

そういうチップチューン(*10)的なところからずっと繋がってきてるルーツというのがあります。特に日本の場合はそうなのかも知れません。だから、やっぱり「ゲーム=デジタル音」。……うーん、悪く言えば言い訳なんです(笑)。でも、その(考えの)下に作られてることが多いですね。 

でも、それを聴いてる方が「否(いな)」と言うかといえば、そうでもなく、(そのようなデジタル的な音楽を)ゲームと親和性があるように好意的に捉えてくれる面がある。ただ、制作者としてきつい点は、やっぱり聴いてくれる側にある種の認識枠ができちゃってるので、そのテンプレ(枠)崩しが難しいです。

ドネルモ
逆に、そういうモデルができ上がってるんですね。

さっき「親和性がある」と言ったのは、コンピュータ音楽のデジタル的な音が前提で、ユーザーも受け入れてる、と思ったからなんです。その中でどうやって色づけできるかを、ユーザー側もある範囲で先取り・期待してるところがあるんじゃないか、と思うんですよね。

ギャルゲー自体が、パソコンから来たわけで、完全にデジタル時代の代物というか、メディア環境の中で成立している。だから、生楽器で作ったものを求める声は、逆に少ないのかなぁ、と。

しかも、低予算の中ですごく工夫するという、ジャパニメーションやお笑い芸人がやってたようなことが、逆にいい意味で働いてるのかな、と思うんです。

テンプレを崩す

クサノ
それはよく感じます。というのも変で、よく感じていま「した」と言うべきかもしれない。

ある制限があって、その制限枠でイッパイイッパイに良いことをやろうとして、その結果すごく良いアートが生まれるというのは、多分世の中に沢山あることだと思うんです。だけどだんだん、コンピュータでやれることが増えていってる。聴く人からすれば、「むしろ生楽器を使うことに何の意味があるんだ?」というレベルまで来ている(=コンピュータで作り出せる楽器の音が、生楽器を録音した音に極めて近づいてきている)。だから一時期より前と比べて、コンピュータで曲を作ること自体に、何か凄いパワーが発生する、ということも無くなってる気がするんです。

この例えをすると、最近の人に文句を言われるでしょうけど、今のニコニコ動画の色んなMADと、70・80年代にテープをつないで作っていた時代のMADは、確実に何かが違うんですよね。そういう方法でしか表現できなかったからやってるのか、あらゆる選択肢の中からそれを選んでやってるのか、というのは、どっちがどうという訳じゃないけど、異質なものになってる気がするんです。

ドネルモ
すごく制限がある中で、めちゃくちゃ必死でつなぎ合わせてた時の作品と、すごく編集技術が簡単になって、敷居が低くなった中で作られた作品との質の違い、ということですよね。クリエイターさんが曲を作る場合にも、それが反映されてるわけですね?

クサノ        
そうですね。僕は反映されてますね。

もちろん、流れ通りの中で良いものを作ろうとする人は多いし、多数派だとは思うんですけど。「どうやってそこから抜け出ようかな」ということに僕は頭が行っちゃうんで、色々考えてはいますね。例えば、それこそ『戦極姫』の曲もそうですが、実際にギャルゲー・エロゲー関係には、あんまり生演奏系が無いんですよ。そこは、ちょっとこだわってみたかったポイントの一つだったりします。

『萌え戦』の曲に関して言うと、これは逆に「編集とかの良さを生かそう」という風に思ったんです。そこで、実際に歌おうとすると、息継ぎが無くて歌えないフレーズというのを一箇所入れてみました。あえて、サビの部分に。

実際のリアリティ(≒再現可能性)というのもある種の規定概念と考えると、そういうリアリティから逸脱して、ポコッと抜け出たものを「あれ?」と思う違和感は、確実にあるじゃないですか。そういう空気的な部分で、まずはチャレンジしてみようかな、というのは色々やってますね。

ドネルモ
リアリティやテンプレの殻を壊すような感じですね。

クサノ
そうですね。知らないからこそ、その殻を飛び越えてしまえる。そういうのが、多分すごく綺麗な美しさだとも思うんですよ。アメリカ人が「こんなのが寿司らしい」って聞かされて作ってみた創作寿司とか、それはそれとしてアリになっちゃってますし。日本のカレーライスなんてのも絶対そうでしょう。

例えばニコ動(ニコニコ動画)系の曲でいうと、僕の中でそれに当てはまるのが「メルト」(*11)という曲だったりします。あれ、人間に歌わせようという前提で作られてる曲では絶対にないですよね。高さ的に。

ドネルモ
絶対にないですね。

クサノ
だから、「あ、やらかした!」って感じで惹きつけられた一面があります。

ドネルモ
ルールを何も知らない人が、そのメディアのルールというのをいきなり飛び越えて作っちゃう、みたいな感じですか?

クサノ
実際、作曲のryoさんという方は、音楽に造詣が深い方とお見受けしているので、狙ってやってみようという、面白い思いつきで作られたと思うんですが。自分にはすごく、「ああ、いいね」ってビビッとくるものがあって、(自分も)そういうビビッとくるものを作ってみたいですね。なかなかうまくいくものじゃないけど。

福岡のゲーム創作環境

ドネルモ
ということで、次はギャルゲー業界を取り巻く環境、ギャルゲー業界はどうなってるのか?という点をお尋ねしようと思います。

福岡には有名な会社が結構あって、「ゲーセン18」や「unicorn-a」(これは同じブランドですが)、「あかべぇそふとつぅ」や「Cyc(サイク)」等があります。また他の大手、「circus(サーカス)」や「Key」「Leaf(リーフ)」「アリスソフト」等、東京一極じゃなくて、全国各地に散らばっているような状況があります。その中で、東京というか全国レベルで張り合えるようなものを作ることは、可能なのかどうか、という問題ですね。

クサノ
そうですね。ギャルゲーに関して、自分がどれくらいものを言えるか分からなくて、どっちかというと一般ゲーム業界の側にいますので、その範囲でよければ。

僕の感覚としては、ヒト・カネ・モノがあるとしたら、多分ヒトとモノは揃ってる。だからそこをうまく生かせば、ポイントにはなるんです。ただ後は、カネ。プラス、その3つを統合して、どういう風に動かすかという、もうちょっと大きなプロジェクトや仕掛け人とかですね。そこら辺がちょっと福岡には不足してるんで、相対的に後れを取ってしまうのかな、というのはありますね。

絵師さんとかは多分、どこの人でもレベルは一緒だろうし、プログラマーさんもきっとそうですよね。後はもうプロジェクト。制作だけじゃなく、販売するところまでも含めて、プロジェクト(の問題)ですね。

ドネルモ
流通網とかもですか?

クサノ
そうですね。そこの質まで、東京並みとは言わないけれども、東京と戦えるところまでいくと、結構面白いものはできるんじゃないか、という風に思いますね。

ドネルモ
そうですね。特に絵師さんとかは、全国に散らばってますよね。自分の生まれたところでやってるという人が、多いのかな?

クサノ
多いですね。

ドネルモ
「そういう人たちは、どのようにして他の地域の情報や技術を身に着けているのか?」と思うんですけど。プログラマーさんとか、そういう方でもいいんですが。

クサノ
絵師さんの場合は、何かしらちょっと特殊な環境がありますよね。同人誌の世界の慣習なのかどうか、あんまり分からないですけど。住所的なものは、あんまり表に出てこないですよね。例えば、「九州で絵を描いてます」とか「東北で絵を描いてます」というように、どこどこで絵を描いてるということが、少なくとも表面的にはあまり意味をなさない、ということがある。だからたぶん皆、東京と比べてどうだ、というのは具体的にあまり分かってないんじゃないかな。

逆に、もしも考えるとしたら、マーケットの規模ですね。「東京に行ったら、俺とタメを張るか凄いやつが沢山来てた。だから、きっと東京は凄いに違いない」という思いが、ひょっとしたら各地域それぞれにあるのかも知れない。逆に、その辺を「いや、違うよ」と分かってるのは、きっと東京にいて、大きな規模のものにも、小さな規模のものにも出てる人。

知らないからこそ出来てしまう、東京への幻想と一極集中。そういうのがあるんじゃないか、と思うんですよね。

ドネルモ
そうすると「東京で大部分をやってる」というのは、一種の幻想なわけですか?

クサノ
幻想というか、やっぱり自然に、そこがでかく見えちゃう。「暗いと怖い」みたいに、すごい本能的なところですね。

ドネルモ
「行ったことはないけど、凄いらしい」という感じですか?

クサノ
きっとそういうのはあるでしょうね。描いてたら「まずコミケ(*12)に行こう」という風に思いますもんね。

ドネルモ
まずは上京をするんじゃないかな、と思えますよね。

クサノ
もちろん物理的な面で、出版業界が東京に集中してる、ということはあります。でも実際のところ、名古屋で絵を描き続けてる鳥山明さん〔現在、愛知県清須市に在住〕のような方も、大きな人ではいる訳です。問題は無いと言えば無いはずなんですよね。少なくとも壁は無いはずなんです、距離はあっても。何かそこら辺が、もったいないですよね……。

福岡で作るという選択肢

ドネルモ
可能性があるのに、上手く生かせていない。福岡の規模とかレベルであれば、十分やれるようなことがやれてない、という感じですか?

クサノ
そうですね。どうしても選択肢として「福岡でやる」というのが、まだ無いですね。(1)上京する(2)やめて就職する、という選択肢しか無い。

ドネルモ
絵を描くのであれば福岡に行こう、みたいな選択肢が欲しいですよね。

クサノ
あるいは上京するのは前提だけど、とりあえず福岡で力を積む。そういう選択肢・第三の道というのは、まだそんなに顕在化されてない気がするんですよね。

ドネルモ
そうですね。別に福岡の固有性を出せという訳じゃないですけど、ゲーム業界にしろ何にしろ、「福岡でやってますよ(又はやれてますよ)」というのは、もっと言っていいのかな、と思います。そしてそうすることで、そこに人材が集まってくる。それで結果的に、ある種の分権体制ができるんじゃないかな、と。

クサノ
特にマーケットだけで判断すると、やっぱりコミケなどの巨人が東京にボーンといる。それで「福岡?ああ、小さい小さい。福岡でやってらんないよ」っていうのが、販売や営業の面で一番見えるところとしてある。だから、なかなか「福岡でやりましょう」という話に本当に結びつかないですよね。福岡でやってるイベントとコミケの差を目の当たりにして、それだけを判断材料にして、福岡で飯が食えるかどうか言えと言われると、(やっぱり)無理ですもん。

ドネルモ
なるほど。そこで東京に行くか、諦めるかって話になっちゃうんですね。

でも、結構気骨のある人は、「あかべぇそふと」なり「システムソフト」なりに食らいつくというか、他所からやってくることはあるんですよね。「福岡で十分やれるよ」ということをちょっと言ってあげたり、そういうある種のイメージを作って、社会に対して発信していけば、夢を持って来る人というのは来てくれるじゃないですか?

クサノ
…そうなんですよね。

ドネルモ
同人レベルから、プロ・作り手の側になる可能性というのは、先入観で諦めるよりもあるのかな、とも思うんですが。

クサノ
後は難しいというのも変ですけど、クリエイティブな作業(=お金にしなくて良い作品作り)という面だけで区切ってしまうと、福岡で物を作るというよりも、Webを使って全国発信してしまった方が良い。そういう方向に流れる気持ちも、やっぱり今の世の中では出ますよね。

福岡でプロになるよりは、例えばニコ動でオリジナルの曲を作って、発信した方が名前も売れる。そういうような選択肢が、今はできてしまっているんです。それが「もったいない」という風に言ったら、すごく経済優位な言い方になるんですが。だけど、自分のやれることの選択肢は狭めてしまっている気はするんです。

ドネルモ
Webの環境で済ませちゃう、ということですか?

クサノ
ですね。表に出てこなくても、発表の場は今、沢山できちゃってるから。

ドネルモ
確かに。一同に会するような感じにはならないですね。コミケという場も一応ありますけど。

…そうですね。本当にその辺は色々な利害があって、ゲームメーカーとしては来て欲しいけど、作り手としてはもっと簡単に表現したい。人に使われるくらいなら、もうちょっと気軽で気楽に制作したい。そのためにネット環境がある、という状況になっている。アニメを作る人もそうだろうし、音楽もそうなんですかね。CDに頼るということが、少なくなるとか。

クサノ
そうですね。なので、音楽もだんだん大きな企業は通さなくなっている。インディーズと言われるところが台頭してくるのも、マージンという問題があるからでしょう。

(作品を)手がける時、そのお金がどこに消えるかというと、結局人件費で消えるわけですから。経済的に見れば「これだけのものが、これだけ少ない人数で作れるよ」というところを突き詰めて行こう、そういう流れになると思うんですが。そういう風なやり方が、多くなってる気がします。

ドネルモ
より少人数・小規模なプロジェクトで身軽に作るわけですね。そういう意味でも、東京にわざわざ行かなくても、福岡でもいいだろうし、例えば熊本でも広島でもいい。

クサノ
販路さえ確保してしまえば、という条件つきなんですけどね。

(Part3に続く) 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(*8)ギャルゲー

少女を中心とした女性キャラクターが作品・物語の軸として作られるゲームの総称。

しばしばイラストや声、台詞などキャラクターの魅力を引き出したり、女性キャラクターを巡る恋愛模様を描いたりする設定・演出が多い。アニメ・マンガ・ライトノベルなどにもメディアミックスされることが多い。

類似する言葉として「美少女ゲーム」や「エロゲー」といった言葉がある。違いとしては、ギャルゲー・美少女ゲームが直接的な性行為の描写がなく、場合によっては全年齢に対応した一般向けゲームを指すのに対し、エロゲーは対象年齢が18歳以上(登場するキャラも18歳以上)で直接的な性行為の描写がある、いわゆる「18禁」作品を指す。

 

(*9)デルタポップエクスタシー

福岡のアニソン・ゲーソンクラブイベント「デルタポップ」の一環で行われているエロゲーソング・オンリーイベント。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(*10)チップチューン

パソコンや家庭用ゲーム機に内蔵されたチップで作られる音楽。

1980年代に登場した当初は、チップ性能の限界から限られた音の範囲で作られたが、コンピュータの処理性能の向上とともに、次第に多様な表現が可能となっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(*11)「メルト」

音声合成ソフト(ボーカロイド)「初音ミク」を使って作曲され、2007年12月に動画投稿サイト「ニコニコ動画」に投稿された曲(作曲:ryo)。1年足らずのうちに250万回を超えて再生され、初音ミクやニコニコ動画を代表する曲となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(*12)コミケ

東京・有明のビッグサイトで開かれる世界有数の同人誌即売会(8・12月開催)。コミックマーケット準備会主催。3日間にわたって、3万サークル以上が出展し、50万人以上が集まる同人誌・サブカルチャー界屈指の大イベント。日本中から様々なジャンルのサークルが応募し、出展の当落が夏冬の風物詩となっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

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次回は、クサノさんの今後の活動に焦点をあてて、目指す方向や福岡を拠点に活動することの意味などについて、うかがっていきます。近日掲載予定、お楽しみに!

 

 

 

 

 


10/07/17 02:27 | コメント(0) | トラックバック(0) このエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーのはてなブックマーク数 Buzzurlへ追加このエントリーのBuzzurlブックマーク数 livedoorクリップへ追加このエントリーのlivedoorクリップ数 Yahoo!ブックマークへ追加人が登録 POOKMARK Airlinesへ追加 Saafへ追加 ニフティクリップへ追加 add to del.icio.us add to Digg add to Reddit

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