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別冊ドネルモ増刊号 《植芝水族館―ディスコミュニケーションの民俗学》


フォト:古賀琢磨
テキスト・構成:笹野正和

(2010年5月14日、福岡市箱崎・箱崎水族館喫茶室にて)

uesiba.jpg 今回は5月14日に行われた、植芝理一作品を巡るトークアラウンド《植芝水族館―ディスコミュニケーションの民俗学》の模様をレポートします(イベントの告知ページはこちら)。普段のドネルモとはちょっと趣(おもむき)が違って、パーソナリティの濃密なトークが炸裂し、めくるめく植芝ワールドの深みを垣間見れた会となりました。

(会場の箱崎水族館喫茶室の皆様、画像使用許可をいただいた植芝先生、本当にありがとうございました!)

植芝ワールドへの招待状~箱崎へ

今回の会場は、福岡市東区箱崎にある「箱崎水族館喫茶室」です。当地は箱崎宮に近く、かつては水族館があったという由来から、このような名前が付けられたとか。宗教・民俗学的モチーフがふんだんに散りばめられている植芝作品を語るには、うってつけの場所のように思えます。

実際に箱崎は、福岡の中でも様々な歴史的出来事・伝説に彩られた土地です。普段はあまり神秘的な体験と縁がないレポーターにも、霊験あらたかな雰囲気が改めて感じられました(詳しくはドネルモ・ヒストリエのレポートをご覧ください)。

今回の参加者は、すでに箱崎を訪れた時点で、植芝ワールドに足を踏み入れていたのかもしれません。

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箱崎水族館喫茶室の外観

イントロダクション

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すでにイベント開始前から、会場は開放されており、お客様が思い思いに植芝作品を手に取られていました。今回は、箱崎水族館喫茶室の店長(館長?)・花田宏毅さんもパーソナリティとして参加されています。そのため、会場全体が勝手知ったる我が家のような、くつろいだ雰囲気でした。しかしそこには木目調の古風な家具や年代物の書物が並び、どこかタイムスリップしたレトロな感覚に包まれています…

さて、いよいよ《植芝水族館》、開幕です!

まず、パーソナリティ4人の自己紹介を兼ねて、それぞれの植芝作品体験やそのインパクトについて一通り語っていただきました。今回のパーソナリティは、花田宏毅さん、森耕一郎さん(詩人・「ガムテープ男」名義で活動)、それにドネルモの山内泰さんと原口唯さんです。

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今回のゲスト、左:森さん、右:花田さん

すると早速、植芝作品の一大モチーフである宗教的背景について、花田さんから解説がありました。花田さんによれば、植芝作品には密教の一派である「真言立川流」をうかがわせる描写が多く見られるそうです。この流派は、かの南北朝時代の一方の主役・後醍醐天皇も帰依していたそうですが、性的要素を重視し、非常に特異な教義を持っていたそうです。さらに立川流は、江戸時代の弾圧で、ほとんど断絶してしまった幻の流派だそうです。のっけから、現代を超えた歴史の古層への扉が開かれたようでした…

ディスコミュニケーションな世界の中の倫理

続いて、各パーソナリティの話題に入ります。

原口さんからは、特に『夢使い』における「倫理観の多様性」が話題にされました。それによると、『夢使い』では同性愛やロリコン趣味など既存の価値観から遊離した価値観によって、作品世界が構成されているそうです。そうして、すべてが夢幻のように実感なき世界で、幻と戯れる人のあり方を見つめ、描いているのが植芝作品の特徴ということでした。

これは、後で重要なテーマになる1980年代以降の日本人の生き方・世界観と強い関連性があるように思えました。そうして植芝作品には、絶対的な価値がない時代の生の実践(倫理)に示唆を与える可能性が感じられました。

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植芝理一の世界観の魅力を語る原口さん

次の山内さんの話題は、「他者理解の不可能性と(ディス)コミュニケーションの不可避性」と言えるでしょう。

山内さんによれば、植芝作品では徹底して他者がイメージ(想像上の対象)として描かれていて、他者と真にコミュニケーションできる(又はできた)という印象を絶対に与えない、とされます。しかし登場人物は、そうした交流の不可能性を抱えつつ、なお謎のままの他者と関わりながら生きざるを得ない。そのように安易な相互理解や独りよがりのナルシシズムを拒否する他者との関わりを描くことが、『ディスコミュニケーション』をはじめとする植芝作品のモチーフだ、という山内さんのお話でした。

IMG_2791 [640x480].JPG理解不能な他者との関わりように着目された山内さん

フラットな世界の底知れぬ深み―80年代について

森さんからは、1980年代の状況と植芝作品の親和性について、お話がありました。

森さんは最近、植芝作品を知って夢中になられたそうです。しかしそれには、80年代のフラットな世界と強烈に通じるものがあった、と言われます。その時代を顧みると、特にCDやビデオが廉価になり、レンタル化されて、大量に消費できる時代になりました。その結果、個々のモノ(商品)は、生命の必要に根差した実体的な意味を持たず、表層的な記号として世界に溢れるようになったわけです。

しかし森さんは「むしろそうした記号的なモノ(商品)を消費する方にアクチュアリティ(現実感)があった」と言われました。植芝理一の初期の代表作『ディスコミュニケーション』は1992年に連載開始され、そこにも一見すると意味不明で雑多なモノが大量に描き込まれています。そのようにして、80年代と、植芝作品の世界は強くリンクしている、ということでした。

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80年代の記号的世界について、ご自身の実感を交えて話された森さん

最後のプレゼンテーションは、花田さんによる「植芝作品の宗教的要素」について、まさにおびただしいモノの意味をもう一度、丹念にひも解いていくような詳細な解説でした。

その一端を紹介すると、作品のある箇所で出てくる仏像は「歓喜(かんぎ)天」という密教の神で、普段は一般に公開されない「秘仏(ひぶつ)」だそうです。というのも、この歓喜天は性の喜びを象徴する神で、その像は男女が抱き合い、合一しているエロティックなものだからです。それは人間の性的側面を重視する密教の中でも、特に人間の性をストレートに表現した神といえるでしょう。そうしたものが作品の中に込められ、言い知れぬエロス性を持っている、という花田さんのご指摘だったと思います。

花田さんによれば、1980年代は密教がブームとなり、「ニューサイエンス」の一翼を担った時代とされます。ニューサイエンスは、すべての事象を物質的要素に解明・解体する近代科学への批判であり、ある種の神秘的な力(エネルギー)に注目する側面を持っていました。すべてがフラットな記号に解体される中で、宗教的神秘性が前面に現れてくる。そういう逆説的な事象が突き詰められ、異常なまでに増幅した作品として、植芝作品が読めることを、森・花田両氏のお話から感じることができました。

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作品の宗教的モチーフについて解説された花田さん

会場からの声~最新作『謎の彼女X』について

会場からは、80年代の記号的世界観の先駆けとして、戦前のジャーナリスト・風刺作家の宮武外骨(がいこつ)の存在が指摘されました。彼はすでに戦前に、様々な社会的出来事や権力者をパロディ化し(憲法まで!)、大衆の人気を得ていたそうです。その外骨の活動が80年代になって、改めて再発見・評価されました。これは、あらゆる価値・権力が相対化される80年代のポストモダン的状況との強い親和性があったからなのかもしれません。

最後に初期の作品から最新作の『謎の彼女X』に至る共通点について、質問がありました。これに対してパーソナリティらからは、際立った共通点よりもむしろ、『X』の登場キャラクターは比較的固定されていて、その魅力を描くことに力点が置かれているのではないか、という応答がありました。もしかしたらそれは、今回の話題となった80年代のフラットな記号の乱舞から、キャラクターがある種のリアリティ・固有性を具えたように描かれる2000年代的傾向への移り行きと何らかの関わりがあるのかもしれません。

IMG_2800 [640x480].JPG会場との応答の様子

以上、当日の模様をダイジェストで報告しました。パーソナリティも参加者の方々も、「まだまだしゃべりたい!」「こんな話題もある!」と、白熱した対話の余韻を残されていましたが、この続きはまたの機会に…

「今度はぜひ植芝先生にいろんな謎を直接聞きたい!」「いや、やっぱりはぐらかされるんじゃないか?(笑)」などと、いつか植芝先生の登場を待ちわびながら、一夜限りの植芝水族館はひとまずの閉幕となりました。

(終)


10/07/20 05:42 | コメント(3) | トラックバック(0) このエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーのはてなブックマーク数 Buzzurlへ追加このエントリーのBuzzurlブックマーク数 livedoorクリップへ追加このエントリーのlivedoorクリップ数 Yahoo!ブックマークへ追加人が登録 POOKMARK Airlinesへ追加 Saafへ追加 ニフティクリップへ追加 add to del.icio.us add to Digg add to Reddit

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コメント(3)

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