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【新春企画】「わたしの2011年たち」 〜笹野正和さんのばあい〜


テキスト:笹野正和
構成:宮田智史

 

新春企画「わたしの2011年たち」

ドネルモHP新春企画「わたしの2011年たち」と題しました本連載特集は、ドネルモのスタッフやゆかりのある方々に2011年を振り返ってもらおうというものです。 

第8回目は、ドネルモスタッフの笹野正和さん「私の2011年」です。笹野さんは、近年注目を集める社会起業と今や社会問題ともいえる高学歴ニート・ワーキングプアの繋がりを紹介下さってます!それではどうぞご覧下さい☆

 

「高学歴ニートが社会起業と出会ったら」

 

2011年、特に感銘を受けたのは「社会起業」だ。それは、あちこちで既存のしくみが機能不全を起こし、あえいでいる日本社会(と筆者のような高学歴ニート)の問題解決の糸口になると思えた。今回はその可能性を紹介したい。

 

1.社会起業

『やりたいことがないヤツは社会起業家になれ』という本がある。著者は、学生の中退予防事業などを展開している山本繁(*1)さんだ。彼によれば、社会起業家とは「社会における様々な課題を事業により解決する人」である。つまり社会が抱えている課題・困難の解決策を作りつつ、それをビジネスとして成立させる人である。だから社会起業(*2)の最大の目的は、「その事業をビジネスとして成立させることで、どれだけ大きく社会問題を改善できるか」という点にある。

NEWVERY:スクリーンショット 2012-01-05 4.06.36.jpg

《山本繁さんが代表を務めるNPO法人NEWVERYのサイト》

それは、無償奉仕が前提で採算がとれないボランティアとも、利潤の増加が優先で、その枠内で社会貢献する通常の企業とも異なる形態、つまり社会の課題解決と事業の継続性を両立する第3の道だ。これが金銭面だけでなく、社会的な意義・働きがいを求める人への訴求力は大きい。

もちろん余裕のある人のボランティア活動はよいことだし、営利企業も顧客のニーズを満たす商品という形で社会貢献していると言える。とはいえ事業者の経済面を維持しつつ、巨額の利益と社会問題の解決を天秤にかけた時、常に「社会」の側を選ぶのが社会起業の本質なのだ。もちろん社会起業的な面を持つ企業やボランティアがあることも確かだ。

すでにアメリカなどでは、社会起業が通常の企業と同等の賃金やステイタスを持つそうだ (*3)。また日本でも病児保育で有名な「フローレンス」「カタリバ」 (*4)など優れた事業がある。

ETIC・震災復興リーダー育成 スクリーンショット 2012-01-05 4.09.50.png

《NPO法人ETIC.のサイト》

また社会起業家そのものを育成する「ETIC」は、震災復興の地域リーダーとなる人材も育てている。山本さんもETICで学んだ1人だ。

ただ彼らも周囲の人々の苦境や事件から、次第にこの道に入ったそうである。まさに「やりたいことがないヤツ」の領分である(*5)。

『やりたいことがないヤツは社会起業家になれ』山本繁著、メディアファクトリー、2009

「やりたいこと〜」表紙 4840127719.jpg

*1:山本繁

社会起業家。NPO法人NEWVERY理事長。大学在学中、不動産投資向け情報提供の会社を設立(のち辞職)。大学卒業後、ボランティア的に始めたニート・ひきこもりを対象にした文章教室「神保町小説アカデミー」やラジオ番組「オールニートニッポン」などを通じた若者支援事業が広く知られて注目されるが、採算がとれず事業としては失敗。

その後、漫画家支援事業「トキワ荘プロジェクト」は黒字化を達成し、問題解決と事業化の両立に成功。さらに日本中退予防研究所では、全国で200を超える学校・大学と連携により、若者が挫折しにくい社会の仕組み作りを展開している。11年には「おとな大学」を設立し、より広範な地域・企業の人材育成にも取り組んでいる。

*2:社会起業

ビジネス・採算の側面を強調する意味で、ソーシャルビジネスと言われる場合もある。

*3:ステイタス

社会起業の主な形態の一つ・NPO法人の数で見れば、日本が約4万('10年)に対し、アメリカは73万、雇用者数1,100万('02年、参照:http://bit.ly/c8MqFG)。そのうち6割が有給スタッフとされる。さらに給与も役員では年収1,000万以上も珍しくない(日本は平均300万程、参照:http://bit.ly/c8MqFG)。そのため「ティーチ・フォー・アメリカ」など著名なNPO法人は、大企業と並んで大学生の就職人気ランキングの上位に入る。

これには日米のNPOの歴史・位置づけ・行政との関係の違いなど多くの要因があるが、現状アメリカにはNPOなどの社会起業に優秀な人材が集まる下地があるわけだ。

*4:「カタリバ」

NPO法人「カタリバ」は教育事業、特に(大学生などの)ボランティアが先輩として高校に行き、その夢や体験談を語ることで、高校生本人の未来を考えるきっかけを作る「カタリ場」('10年度グッドデザイン受賞)を展開している。

*5:「やりたいことがないヤツ」の領分

「この社会起業家としての素質に関しては、やりたいことがすでに明確に決まっている人よりも、まだ全然定まっていない人の方が向いているようだ。というのも、そ ういう人は自分のニーズ(やりたいこと)がない分、逆に周囲の人々や社会のニーズに率直に耳を傾ける時間や姿勢を持ちやすいだろうから。

言い換えれば、「やりたいことがあるヤツ」は、もう確かなアイデンティティと進むべき道を持っている。逆に「ないヤツ」こそ、これから社会や他者の声を聴き、取 り組むべき課題を知ることが、自分自身のアイデンティティや生きがい作りのきっかけになりうる。

同署でも、最初は社会問題や人々のニーズを聴き、後から自分に合ったテーマを見出した人々が紹介されている(p.149)。そういう意味では、社会起業は単にあ る一つのビジネス分野ではなく、社会(他者たち)の中で自分の活動の場や生きがいを探る営み、つまり自分と他者を繋ぐコミュニティの再形成の営みでもあるだろう 。」

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2.高学歴ニート・フリーターが社会と出会う

ところで現在日本では、20年来の博士人材の大量養成で、専門スキルを持ちながら、大学のポストがなく(新卒向け)就職もできない人間が数多くいる。彼らは、読み手が限られた論文を書き、数少ないポストに応募しながら、時に10年以上、非常勤職やニートなどの不安定な立場にいる(筆者もその予備軍だ)。その数は10万人に近いとされる(*6)。いわば「やりたいことが(でき)ないヤツ」だ。そうして大学社会の中で(ひっそりと)人生を閉じていく人間も多い。

だとすれば社会起業が、彼らと他の社会を結び直す選択肢の一つにならないか。一般に研究とは問題の発見、分析、解決の提案だ。そしてその学識を社会で実践し貢献するのが博士の本懐のはずだ。高齢化・過疎化・貧困問題など何であれ、社会起業を通じて、博士と社会(やその課題)との有益な関係が築かれ、同時に博士の将来が豊かになるなら理想的だ。

とはいえ博士が社会起業家になるには、なお多くのビジネススキル・努力が必要だし、社会起業自体も非常に不安定な職業だ。だから筆者も「博士よ社会起業家を目指せ!」と勧めたいのではない。

より重要なのは、社会起業的な活動を通じて、博士のスキルが社会に還元される時の相乗効果だ。それは初めは当該分野の相談やある団体の技術的サポート程度でもよいだろう(*7)。だが、そうして(市民)社会の中で活動・貢献の場が広がり、社会と関係し合えるなら、それは博士本人にも良い存在意義となるだろう(筆者もイベント運営やそこでの参加者との対話が大きな刺激になった)。そこには大学社会でのポスト獲得とは違う生きがいがありうる。

そういう意味で社会起業と「やりたいことが(でき)ないヤツ」との繋がりを見出した1年だった。

 

*6:10万人の不安定な立場

この辺りの事情は水月昭道『高学歴ワーキングプア』に詳しい。またhttp://tmaita77.blogspot.com/2011/04/blog-post_04.htmlを参照。その他『博士漂流時代』、『アカデミア・サバイバル』などの書物も出て、国会でも博士の困窮が取り上げられたが、まだまだ社会の認知度は低い。

 

*7:博士のスキルが社会に還元される

そうした専門知・スキルを活かして、市民社会に無償で貢献することは「プロボノ」と呼ばれ、企業人や専門家の間でも活動が広がっている。

スクリーンショット(2012-01-11 18.26.22).jpg

NPO法人サービスグラントは、NPOに対して「お金」を支援する助成金(グラント)と異なり、「スキル」や「ノウハウ」を提供することによってNPOを支援する「プロジェクト型助成」として、日本で「プロボノ」の仕組みを組織的に進める代表的なNPO法人である。ただし、現在こうした「プロボノ」の領域において求められる「スキル」は、プログラマーやマーケター、財務・法務スキルといった領域に限られており、高学歴者のアカデミックなスキルや知識を多方面に提供したり、媒介したりする組織やしくみの台頭が望まれる。

 

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著者紹介

笹野正和(ドネルモスタッフ)

ドネルモ会計、ライター/編集。九州大学大学院・博士課程(芸術工学府)専攻は哲学・倫理学。‘00~05年:建築から哲学へ転向。旧・九州芸工大で現象学・実存主義・他者論など20世紀の思想を研究する。‘06〜08年:東浩紀に触発され、サブカルチャー、デザイン論を学ぶ。同時にドネルモの批評を通じた社会活動に参加する。‘09~11年:趣味からのコミュニティ形成に関心を持ち、表現規制問題やアニメトークイベントを運営する。現在:NPOの財務・運営を習得中。アニメは『ぱにぽにだっしゅ』が頂点と思う33歳。趣味:アニメ、近現代史、ドキュメンタリー・教育・ビジネス番組

 

 

 

 

 


12/01/12 09:33 | コメント(0) | トラックバック(0) このエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーのはてなブックマーク数 Buzzurlへ追加このエントリーのBuzzurlブックマーク数 livedoorクリップへ追加このエントリーのlivedoorクリップ数 Yahoo!ブックマークへ追加人が登録 POOKMARK Airlinesへ追加 Saafへ追加 ニフティクリップへ追加 add to del.icio.us add to Digg add to Reddit

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