仕事のしかたvol.2

文化芸術×社会包摂の評価のこれから

2017.12~2021.3 | 文化庁×九州大学共同研究 「文化芸術による社会包摂の在り方」
共生社会の実現に向け、社会包摂につながる文化事業の評価について捉えなおし、文化・福祉事業に携わる人たちの後押しをしたい。

文化庁地域創生本部、九州大学ソーシャルアートラボ

社会包摂につながる文化事業に関する、先進的な事例や評価の実践方法を調査し、成果をまとめたハンドブック3冊を制作。2021年に書籍化されました。

「文化芸術による社会包摂の在り方に関する研究」とは

文化庁と九州大学ソーシャルアートラボの共同研究。社会包摂を目指した文化事業とその評価をテーマに、国内外の文化政策や先行事例の調査・インタビュー、シンポジウムの開催などを通して研究を行い、その成果をハンドブックにまとめ発行した。

どのようなプロジェクトだったのか?

2017年から3年間にわたって実施された、文化庁と九州大学ソーシャルアートラボによる「文化芸術による社会包摂の在り方に関する研究」という研究プロジェクトがあり、ドネルモは研究チームの一員として、研究会の運営や事例調査、ハンドブックの編集制作等を担当しました。

現在文化庁では、社会包摂につながる芸術活動の支援を行っています。ここで「社会包摂につながる芸術活動」と聞いて、どのような活動かピン!と来る人は少ないかもしれません。「社会包摂」とは、違いのある人たちを、違いを尊重したまま受け入れる社会を目指そうとする考え方です。そうした社会の実現を目指して、芸術活動に取り組む際に、それらをどのように理解し、実践し、評価するか?ということを検討し、その成果を年に1冊ずつ、計3冊のハンドブックとしてまとめました。


社会包摂を説明する図。「入れてあげる」のではなく「一緒にいる」。(『文化事業の評価ハンドブック――新たな価値を社会にひらく』水曜社、2021年、頁21)

1年目は、社会包摂につながる芸術活動の理解を深め、事業と関わる行政と現場がどのようにコミュニケーションをしたらよいかを検討しました。2年目は、社会包摂につながる芸術活動を継続していく時に欠かせない、評価するとはどういうことかについて考えました。さらに3年目は、実践的な書き込み式ワークシートを開発し、ケーススタディを参照しながら、「新たに生まれた価値をどのように評価するか?」という文化事業ならではの評価のありかたを考えました。

ハンドブックを読んだ人たちからも、実際に現場で使える!との声をいただいています。

 

なぜドネルモが、事務局とハンドブックの編集を担ったのか?

ドネルモは、研究メンバーの一員としてこの事業に携わりました。毎月実施する研究会では、連絡調整や運営、そこでの議論を活発にするためのファシリテーションを行うとともに、初学者の人にも分かりやすい読み物にするためのページ構成の提案など、アドバイザーとして、研究者や有識者のみなさんと議論を重ねました。

また、研究の一環として開催した公開研究会の運営やシンポジウムへの登壇、日本文化政策学会やアートミーツケア学会での発表などにも参加しました。

さらに3冊発行したハンドブックの執筆・編集・制作を担当。研究メンバーへの原稿の依頼から、先行事例の調査、実践者のみなさんへのインタビュー、一部原稿の執筆や、デザイナーとのやりとりを行いました。


↑2021年に3冊のハンドブックをまとめた書籍『文化事業の評価ハンドブック――新たな価値を社会にひらく』が出版された。

なぜドネルモに、この事業の依頼があったのかというと、もともとNPO法人化する以前に、アート批評を行っていたり、福岡市民芸術祭に関わっていたりという、アートに関わる活動の経験があったからです。さらにこの研究プロジェクトを通して考える社会包摂についても、ふだんから関連する事業を行っているということもあり、両方の文脈を持つ団体であるということから、声を掛けていただきました。ドネルモとしても、包摂的な社会を実現するために、芸術をどう実践し評価していくかというのは、とても興味がありました。

またふだんの事業においても、ドネルモでは考えをできるだけ丁寧に言語化するということに取り組んでいて、概念的な部分の言語化や、全体を俯瞰しつつ意見を出しまとめていくという点で、役に立てることがあったのではと思います。

 

包摂的な芸術活動の現場で起きていること

「文化芸術」や「福祉」は、これまでそれぞれ専門的に行われてきていて、価値もそれぞれに判断されてきました。今回の事業を通じて、それを横断的に行うときに、「確かに現場ではなにかが起きている。しかしそれがなんなのかが、これまでのやり方では捉えきれない」ということがわかりました。既存の評価軸が適用できず、現場や行政、分野の違いなど、異なる立場で事業に関わる人たちのすれ違いも起こっています。「文化芸術」と「福祉」の間で起きていることを評価するためには、新しい価値を一緒につくっていくための実践的なヒントが必要だということで、今回の事業が行われました。

評価というと、一方的でネガティブな印象を受けるかもしれませんが、実は立場の異なる人同士をつなぐコミュニケーションツールなのだということが、この事業やハンドブックを通して明らかになったのではないかと思います。例えばある展覧会を評価するときに、入場者数の増減で事業の良し悪しを判断する軸しかなければ、「目標人数を達成できないのはだめな事業」となってしまいます。しかし、「そこに関わった人にどんな変化が起きたか」を軸にとらえると、「これまでにない新たな価値」が生まれます。

事業に関わる人達と、大切にしたい評価の軸を共有し、一緒に評価方法をクリエイトし、それをどのように可視化できるかを検討し、実際に評価してみるという行為そのものが、立場の異なる人たちをつなぐコミュニケーションとなり、事業の意義や価値を説明する言葉となります。

「評価そのものから考える」ということは、ドネルモの事業についても役立っています。実際にワークシートを使って、自分たちの事業を評価するということを始めています。大切なのは、決まった目的に向かって一直線に邁進することではなく、「この事業の持つ本当の意味って、こういうことだったのでは?」と迷いながらもジリジリ進むということなのだと思うようになりました。

仕事のしかたvol.1

これからの暮らしを自分たちでつくる

2014.4~ | 地域デザインの学校
少子高齢化や共働きにより社会状況が変化し、立ち行かなくなった地域活動のあり方を変えたい。

行政、自治会/公民館、商店連合会、大学(研究室)、医療/福祉事業所

これからの地域の暮らしを住民自ら考えるワークショップと、ヒアリングやアフターフォローを含む一連のプロジェクトを、福岡市内外の20以上の地域で実施。様々な活動が生まれています。